開幕を目前にした横浜ビー・コルセアーズ トーマス・ウィスマンHCに聞く。


「未完成こそがこのチームの魅力」ウィスマンHCが語るビーコル“SEA CHANGE”への大いなる挑戦。

今季より、横浜ビー・コルセアーズを率いる新指揮官トーマス・ウィスマンHCに話を聞いた。

栃木ブレックスをBリーグ初代王者に押し上げたことで知られる名将トーマス・ウィスマンは、ビーコルが低迷に苦しむ昨シーズン途中にアドバイザーとして就任。以来、その効果は如実に現れ、ウィスマンがベンチに入ってからは善戦が多くなっていった。今シーズンからはヘッドコーチとして、ビーコルを優勝出来るチームへと変貌させるべく、その手腕を発揮している。

横浜ビー・コルセアーズ トーマス・ウィスマン ヘッドコーチ


ウィスマンは、スクラップアンドビルドともいえる大改革でこのチームを立て直している。練習量は飛躍的に増え、練習後には選手たちが声を出すことが出来ないほどにハードなものになった。

名将の大胆なメスはチーム編成にも及んだ。エース川村卓也を中心にして、7選手を入れ替え。さらには外国籍選手も一新させてチームの若返りを成功させた。これでBリーグ以前にいた選手たちは全員ビーコルを去ることになり、痛みも伴う大変革となった。ビーコルを再び優勝出来るチームへと変貌させるこの長期計画をウィスマンはどのように考えて実行しているのか。まずは、開幕節を1周間前に控えた今のチームの仕上がり具合を聞いた。

「コーチとして、1周間後にこのチームが準備出来ているかというと、正直まだ分からない状況です。チーム自体は進歩してきていますが、まだ未完成な部分が多いのです」

「昨シーズンと比べた今シーズンのチームが持つ強みは得点が取れることです。いろんな選手が点を取れるようになっています。このことは私の仕事を楽にしてくれていますが、一方でこのチームは、ディフェンス面でまだまだ難があります」


ウィスマンは、自身のことを「私は昔からディフェンスに集中するコーチ」と語る。そのバスケは「チームとして走って、ディフェンスを
することを求めていく」ものであり、この考えは今のビーコルが求める変革にフィットしているといえる。

「まずはディフェンスを修正していかなければなりません。言い方を変えれば、ディフェンス面を修正する余地があるということは、このチームが成長出来る可能性があることなのです。チームはまだ未完成ですが、来週、富山でおこなわれる開幕節をしっかりと闘ってきたいと思います」


選手たちに話を聞いても、ウィスマンの指導はこれまでとは大きく違っているという。それだけに、ウィスマンが求めるバスケを100%理解するのに時間がかかるのは当然といえる。

そのため、新チームの初陣となった川俣町でのプレシーズンゲーム福島戦では、まとまりに欠く場面が多く出てしまいB2チームに15点差を付けられて敗戦した。ウィスマン自身が「早過ぎるアーリーなゲーム」と言っていたアーリーカップでも千葉戦では59点差をつけられて大敗。しかし、翌日の川崎戦では5点差での惜敗で、少しずつだが、まとまりが出てきていた。


そして稚内でおこなわれた北海道とのプレシーズンゲーム2試合ではGAME1を1点差で惜敗したものの、GAME2で大量19点のリードを奪って北海道を圧倒。この大勝は、新チームになってからの初勝利になったと同時にウィスマンビーコルの方向性が間違っていないことを示した。以降ウィスマンは、さらなる猛練習を選手たちに課し、練習試合も重ねてきている。10月6日の開幕戦を間近に控えた現時点で、ウィスマンの考えはどこまで浸透しているのだろうか。

「チームが進歩しているのは確実です。チームが私のこと、私のバスケを理解しようとしているのは見えています。ただ選手たちが私の考えを100%理解しているのかというと、まだそうではありません。選手たちの理解が100%になった時に真のチームになりますが、現時点ではまだその段階には到達していません。私たちはまだ成長過程。その中でしっかりと成長していき、私の考えを選手たちに落とし込んでいきたいと思っています」


ウィスマンは、このチームのオフェンスには楽観的な考え持っているが、その一方にある課題が大きいという。

「このチームは、どちらかというとオフェンス重視の選手が多いと思っています。そのオフェンス重視の選手たちにディフェンスをさせるというのが、私の仕事だと思っています。オフェンスが出来ているぶん、あとはディフェンスを教え込むだけです。ディフェンスがしっかりと出来るようになれば、良いチームが出来ると思っています」


10月6日と7日の開幕節はアウェーの富山市総合体育館で、富山グラウジーズと闘う。

「富山は、私たちと真逆のチームです。選手も多く変えていますが、違うのはリーグで長い間プレーしている選手を揃えたことです。これは経験がある選手が揃っているということで、シーズンの頭から何をしないといけないのか、勝つためには何をしないといけないのかを分かっている選手が多く在籍していることになるのです」

「逆に新しい外国籍選手、新しい若い選手を集めた私たちのチームは、経験が不足しています。外国籍選手が日本でプレーする1年目は、他の国でプレーするのとは全く違うことになり、日本のバスケに慣れる期間が必要になってきます。現段階でのチームが、富山と闘うとどうなるかは分かりませんが、私個人の理想としては、もう少し慣れてから当りたかったです」


ウィスマンは、今シーズンから始まる「ビーコルを優勝させる」というこの大事業について、こう考えている。

「今シーズンは、私の中では成長のシーズンと位置づけています。ゴール(目標)は決めません。このチームの可能性はまだ未知数です。限界も分かっていません。このチームがどこまで伸びるかはやってみないと分かりませんが、それこそがこのチームの魅力なのです」

「このチームは、毎週、毎週、試合をするたびに成長出来るチームです。その成長が、最終的に私たちをシーズンの終わりにどのポジションまで連れていってくれるのかは分かりませんが、私はこのチームのケミストリー、チーム力、選手同士の仲の良さが好きですし、それらを非常に買っています。チームが成長していけば、特別なものが現れてきます。私たちにとって、エキサイティングなチャレンジになりますね」


最後にウィスマンHCは、共に闘うビーコルブースターについて、その想いを語ってくれた。

「私がこのチームに入ってきた当初に一番驚いたのは観客動員数です。チームの勝利が伸びていないのにもかかわらず、観客動員数がリーグで5位。これはあまり見てこなかった例です。強いチームにファンが付くというのは分かりますが、弱いチームにもファンが付いてくれている。本当にビーコルブースターの皆さんのサポートというのは、私にとって特別なものです。彼らは私たちの悪い時期もずっと応援してきてくれています。その彼らにもしっかりと恩返しをしたい。チームが勝てば、さらなるサポートをしてくれると思います。彼らと共に闘い、横浜を最高なものにするために頑張っていきたいと思っています」ウィスマンの考えは、これまでに聞いた選手たちの話からも大きく受け入れられていることが分かるし、選手たちも期待している。ただ、今は優勝出来るチームになるための長期計画が始まったばかりであり、成長途上のチームなだけに過度な期待は禁物だ。しかし、名将ウィスマンの考えと指導、エース川村卓也を軸に若返ったチームが見せるスピード感溢れるトランジションバスケは、Bリーグ中地区の台風の目になる可能性を秘めている。ビーコルの2018−19シーズンは10月6日のアウェー富山戦からいよいよ始まる。

ウィスマンビーコルはいよいよ10月6日富山で、2018−19シーズンの大いなるSEA CHANGEの闘いへと出港する

【インタビュー・写真・記事/おおかめともき】

 


Written by geki_ookame