無念のシーズン途中終了。横浜ビー・コルセアーズ植田哲也代表取締役に聞く【後編】


BE COURAGEOUSを掲げた今季の闘い。そして、いま出来ることで届ける今後の取り組み

横浜ビー・コルセアーズの2019−20シーズンは、新型コロナウイルスの影響から19試合を残してシーズン終了となった。無念のシーズン途中終了となった植田哲也代表取締役に約2時間にわたって話を聞いた。新型コロナウイルス禍の中で海賊のトップは何を感じたのか?前・後編に分けてお届けする。

後編では、今季の闘いと現在模索している今後の取り組みなどについて聞いた。

横浜ビー・コルセアーズ 代表取締役 植田哲也。約2時間をかけておこなわれたロングインタビューで植田は、がむしゃらに駆け抜けた今季への思いをじっくりと語った

 

今季の闘いを振り返って

ビーコルの2019−20シーズンは、41試合を闘って11勝30敗、勝率.268で中地区5位。B1全18チームの順位では16位(ワイルドカード10位)が最終成績になった。今季の闘いを植田はこう振り返る。

「今季はトーマス・ウィスマン前HCが2年目のシーズンでした。チームのロスターも大幅に入れ替えて、クラブの代表取締役も岡本から私に代わりました。全てを新しくして心機一転で臨んだシーズンでした」

ビーコルはBリーグ初年度から3シーズン続けて残留プレーオフ出場が続き、B1に残ってきた。このままではいけないと、今季は変革を期して挑んだシーズンだった。Bリーグ創設時からプレーしたエース川村卓也、細谷将司らが退団して、新たにアキ・チェンバース、生原秀将、牧全らを獲得。キャプテンの田渡 凌を中心にしてチームは一気に若返った。

迎えたシーズン開幕では、北海道でおこなわれたアウェー開幕2連戦こそ連敗したが、続くホーム開幕秋田戦アウェー三遠戦を勝利して連勝し、島根と闘った横浜国際プール開幕2連戦ではGAME1を落としたもののGAME2で勝利して1勝1敗。中2日後におこなわれたホーム新潟戦も勝利して2度目の連勝を挙げ、シーズン最初の10月は4勝5敗とまずまずのスタートを切った

「最初は良いスタートが切れたと思います。ただ、そのあとの11月、12月が良くなかった。チームは生き物だとつくづく思い知らされました」

昨年10月11日横浜文化体育館でおこなわれたホーム開幕戦でビーコルは秋田に15点差をつけて勝利。シーズン最初の1ヶ月は4勝5敗とまずまずのスタートを切った。以降の2ヶ月で苦戦が続いたが、12月までは中地区2位を維持していた


11月に入るとビーコルは、最初のホーム滋賀2連戦を1勝1敗で終えたものの、以降の大阪2連戦と川崎2連戦を全敗して1勝5敗。それでも12月最初のアウェー新潟2連戦を連勝して連敗を「4」で止め、波に乗るかと思われたが、以降で川崎、A東京、千葉、三遠、三河に全敗して8連敗と失速。12月には、ジェイソン・ウォッシュバーンとジョルジー・ゴロマンが退団し、代わってジェームズ・サザランドとウィリアム・マクドナルドが加入した。

「負けが込んでいくにつれ、チーム内に心の動揺があったと思います。今季のビーコルが目指すものもまだ伝わり切れていなかった。こういったことから、チームの歯車が少しずつ狂ってしまったんです」

中地区争いでビーコルは、12月21日のアウェー千葉2連戦GAME1まで、首位を独走する川崎に次ぐ2位を維持していたが、以降で順位を落とし、年末におこなわれたホーム三河2連戦GAME1での敗戦で順位を5位にまで落としてしまう。

「当初は中地区2位でしたけど、気付いてみたら5位になってしまっていた。10月の勢いを維持することが出来ませんでした」

2020年が明けた1月最初のアウェーSR渋谷2連戦とアウェー新潟戦も落とし、連敗は「11」にまで膨らんでいた。新潟戦からはウィスマンHC(当時)が欠場して福田将吾AC(当時)がHC代行を務め、2月1日にウィスマンの契約解除と福田将吾のHC就任が発表された。

「(HC交代では)選手とコーチ陣とのコミュニケーションが如何に大切なのかを改めて痛感しました」

トーマス・ウィスマン前HC


bjリーグ時代、ビーコルの初代HCを務めたレジー・ゲーリーは、選手のポジションから、ボール運び、シュートに至るまでの戦術を事細かく決めていた。ゲーリーは就任2シーズン目にビーコルを優勝に導いた。一方でウィスマン前HCの指導方法は、土台となる部分をしっかりと指導しつつ、ディフェンスでは徹底したルールを敷き、オフェンスでは選手主導でクリエイトさせるスタイルだったという。

「選手たちが気持ちを100%出せない状況に陥り、信頼関係が壊れてしまった。立て直すためには、策を打たないといけない状況だったんです。(HC交代は)トムと選手、双方の話をよく聞いた上で出した非常に苦しい決断でした」

福田が指揮を執るようになってからビーコルは競争力を取り戻して善戦を続けた。HC代行2試合目のホーム川崎戦では、これまで未勝利で首位独走中の川崎から初勝利を挙げ、HCに就任した2月以降では強豪の大阪とSR渋谷から勝利を挙げて、チームとファンに勝てるムードを植え付けた。

「後任の福田HCはチームの危機を救ってくれたひとりだと思っています。今までトム(トーマス・ウィスマン前HC)の下でやってきて、選手の意見を聞いてきました。プロリーグでの指揮が初めてだったにもかかわらず、短い時間でチームを立て直して、結果を出してくれました。選手が求めていることを理解していたことが大きかったと思います」

ウィスマンの後任として横浜ビー・コルセアーズの指揮を執った福田将吾

ビーコルはBE COURAGEOUSに闘えたか?

今季ビーコルは、闘う集団に変わるべく、クラブ創設以来初めてとなるチームスローガン『BE COURAGEOUS(=ビーカレイジャス)』を掲げた。勇気を持つ、勇敢であるなどの意味を持つこの言葉には、どんな状況になっても勇敢に闘い、強い気持ちを持って、最後まで諦めずに闘うといった決意と覚悟が込められていた。では、ビーコルはこのスローガン通りに、『BE COURAGEOUS』に闘えただろうか?

「全試合で100%出来たかといえば、そうではないと思いますけど、惜敗で善戦した試合や勝った試合ではやれていた。特にシーズン後半では『BE COURAGEOUS』のマインドを持った試合が多くあったと思います」

植田にとっての『BE COURAGEOUS』な試合を聞くと、興奮気味にこう答えた。

「それはもう川崎ブレイブサンダースを倒した平塚でのホーム戦ですね!熾烈なシーソーゲームを演じて、今まで1度も勝つことが出来なかった川崎から遂に勝利をもぎ取った。あの時のビーコルは、本当に『BE COURAGEOUS』だったし、前日の練習でも、絶対に勝つ!というポジティブなムードがありました。あの試合でのビーコルは最後まで諦めず、本当に強かった」

植田が今季最も「BE COURAGEOUS」な闘いだったという1月22日平塚でのホーム川崎戦


11連敗中だった1月22日の第18節ホームトッケイセキュリティ平塚総合体育館での水曜日GAME川崎戦。ビーコルは1Qで9得点しか入れられず、スコアが伸びなかったが、2Q以降で20点台の得点を続けて猛追。最終盤の4Q残り1秒でジェームズ・サザランドが2Pシュートでブザービーターを決めて劇的な逆転勝利を収めている。

「立ち上がりはね、バーンとやられてしまったんだけど、諦めなかった。徐々に追い上げていって4Qで追いついて、最後の最後にまさかのブザービーターで川崎から初勝利!あの時は本当に涙が出て、うれしくて、男泣きしました。周りのファンの皆さんとも抱き合って喜び合って、最高の瞬間でした。選手たちには『最後まで絶対に諦めないでくれ』と話していましたし、彼らもこれに応えてくれた。チームにとっても、巨大な壁をひとつ打ち破って、大きな自信をつけた勝利になりました」

ジェームズ・サザランド(中央)のブザービーターで大逆転を決めた時、平塚は歓喜の坩堝と化した。ビーコルが対川崎戦全敗という不名誉な記録に終止符を打った瞬間。植田は人前をはばからずに男泣きした


福田が指揮を執り始めてからの戦績は4勝10敗だが、この4つの勝利は川崎大阪SR渋谷三河といった強豪チームから挙げたものばかりだった。中でも2月15日におこなわれた第23節SR渋谷との2連戦GAME1では大激闘の末に101得点を入れた11点差で、リーグ屈指の得点力を誇るSR渋谷を力でねじ伏せている。

「得点力が高いあのSR渋谷をですからね。三河も重量級のオフェンス能力を持っていましたし、それに打ち勝つことが出来たんですから、今季のチームにポテンシャルがあることが証明されました。途中で外国籍選手の入れ替えや特別指定選手の補強はありましたけど、基本的には同じ戦力だったわけです。それだけに『選手の動かし方』『気持ちの持っていき方』が、如何に大事かってことなんですよね。この2つの要素だけでも結果はだいぶ変わってくる。選手たちは感情のある人間です。彼らが持つ気持ちをどう持っていくのか?彼らが持つポテンシャルを100%以上に持っていくためにはどうやっていったら良いのかを大事にして、考えていかないといけません。これは企業においての人的リソースの使い方も同じですよね」

福田が指揮を執るようになってから、ビーコルには勝てるムードが出ていた。新型コロナウイルスでのシーズン中止は、紆余曲折の末、ようやくチームに競争力が出てきた矢先のことだった

苦難が続いた代表取締役1年目

今季、岡本尚博前CEOからバトンを受け継ぎ、新たに代表取締役に就任した植田は、いわばフロント部門での変革の旗頭だったといえる。

「代表取締役に就任したのは昨年の7月でしたけど、ここまで無我夢中にやってきて、学んだことは沢山あります。嫌だな、ハードルが高いなと逃げずに、早めにぶつかっていくことが大事なんだと改めて痛感しました。これは『BE COURAGEOUS』にも繋がることなんですけど、勇気を持って、思い切ってぶつかっていく、これが大事なんですよね」

クラブの代表から代表取締役に就任した1年目は、今回の新型コロナウイルスのことも含めて苦難の連続だった。

「ここまで、大変だったことは確かなんですけど、僕の中では比較的、良い方向に転がったんじゃないかなと思っているんです。HC交代の時もそうでしたし、今回の新型コロナウイルスのこともそうなるように願っています。難題に直面したら、恐れず、それにぶつかっていって答えを探していく。大事なのは、不安を感じる時ほど思い切って行動し、自らの意志でやると決めたことをとことんやり続けるということなんです。全てが平穏無事にいくことはないと思っています。ここまでの経験ひとつひとつが、今後のビーコルで必ず役立っていく。僕はそう信じています」

「今シーズンはまだ終わってはいませんけど、来シーズンに関しては、チームと全ての業務でコミュニケーションをさらに良くしていこうと思っています」

いま出来ることで、ビーコルを楽しんでもらう

「今季はまだ終わってはいない」植田が言ったこの言葉は実に印象的だ。試合が出来なくても、ビーコルには出来ることがある。

「いまファンの皆さんは、試合が観たい、選手のプレーが観たい、アリーナにいきたい、シーズンオフのイベントにいきたい、選手と触れ合いたいと思ってくださっていると思います。こういった状況になって、残念ながらこれらは叶いませんが、出来るだけこれに近い環境を作って、届けていきたい。我々がいま出来ることで、ファンの皆さんが試合がなくてもビーコルを楽しんで頂けるようにしていきたいと思っています」

ビーコルは既に、ファンが自分の好きなスポーツチームや選手に投げ銭が出来るサービス『Engate』を使ったLIVE配信『ビーコルLIVE-アイランドパークステージONLINE-』をスタートさせている。これはクラブの運営事務所があるビーコルセンターから不定期で発信しているWEB生放送で、時には選手もゲスト出演して、ファンを楽しませている。

ビーコルが現在おこなっている取り組みのひとつビーコルセンターから生配信でファンに届ける『ビーコルLIVE-アイランドパークステージONLINE-』時には選手も登場するビーコルファン必見のコンテンツになっている


「『ビーコルLIVE』は我々にとって、新たなチャレンジのひとつです。LIVE配信には大きな可能性を感じています。毎年ビーコルでは、シーズン終了後に『帰港式』といったシーズン終了の報告会をファンの皆さんに向けておこなっていますが、緊急事態宣言も出て、開催が出来ない状況にあります。我々としては、皆さまに『今季もありがとうございました。ビーコルは無事帰還しました。また頑張って、来シーズンに向かっていきます。応援をよろしくお願いします』と区切りをつけておきたい。
今後の状況が好転すれば、本来の形での『帰港式』を開催したいと思っていますが、現時点では出来ません。試合も観れず、選手たちと触れ合っていただくことも出来ずに本当に申し訳ない気持ちでいっぱいですが、LIVE配信を使って出来ないかと考えているところです」

「今後、LIVE配信を駆使して、皆さまに楽しんで頂けるコンテンツをお届けしていこうと考えています。プレゼントイベントも出来ると思いますし、LIVE配信だけに留まらず、可能性があるものは全てチャレンジしていこうと思っています」

植田は、B-COR MAGAZINEでの新型コロナウイルス勉強会記事の中で「みんなでこのピンチをチャンスに変えて、乗り越えていきましょう」といったメッセージを送っていた。いまもその気持ちは変わっていないという。

「みんながマインドを持つことが大事です。いまピンチだからといってうずくまらない、立ち止まらない。では、これをどうやって打開していくのかといったら、強いマインドを持って、前に進むしかないんです。苦しい状況の中でも進み続けることで、新たな発想が生まれてきます。進むのを止めてしまって『もうダメだ』となってしまったら、そこで思考が停止してしまう。思考が停止したら、行動も止まってしまいます。いまはみんなが苦しい。苦しいのは僕らだけではないんです」

このことを話していた時の植田は、自分自身に言い聞かせているようだった。新型コロナウイルスに立ち向かわなければならない植田自身の決意でもあるのだろう。

「僕自身もそうでしたから。いまは出来ることをやる。立ち止まらずに前に進んで、出来ることを考えて実行する。今後、新型コロナウイルスが終息して、状況が回復してきた時に『あの時、ビーコルは逃げなかった』と思ってもらえるようにしていかないといけないんです」

来季をどう闘う?

例年通りでいけば、来季2020−21シーズンの開幕は10月になる。もちろん、これは新型コロナウイルスが終息していることが前提だ。先行きが見えない状況だが、植田は希望を込めて来季のことをこう話す。

「チームに関しては、今季の反省を踏まえて、足りなかった部分をしっかりと補っていきます。フロントに関しては、これは今季もやってきたことですが、お客様にもっと会場に足を運んでいただくことに、さらに重点をおいてやっていきたいと思っています。クラブの価値というのは、どれだけ多くの人々に支持されているかだと思うんです。スポンサーさんでいえば、ひとつの会社に支えてもらっているクラブもありますけど、ウチは違う。複数の、出来るだけ多くの会社様にスポンサーになっていただき、支えていただいています。ファンや地域の皆様にとって価値がある、お役に立てるクラブになり、ビーコルを応援したいといった気持ちを増やしていかないといけない。この気持ちが大きくなれば、会場に試合を観にきてもらえます。チケットを買って試合を観にきてくれる人を増やすことが、スポンサーさんを増やすことに繋がっていくんです」

来季もビーコルはB1の舞台で闘う。このことを改めて聞くと、植田は強い決意を持って、こう答えた。

「来季ビーコルは10周年を迎える節目のシーズンです。Bリーグになってからも5シーズン目になります。“弱いビーコル”はもういい。今シーズンの後半で出来た競争力をさらに伸ばしていって、勝てるチームに、“強いビーコル”にしていかないといけません。来季こそ、ビーコルを応援してくださっている皆さんに喜んでいただきたい。そう思っています」

横浜ビー・コルセアーズ代表取締役・植田哲也からビーコルファンへメッセージ

インタビューの最後に植田は、ビーコルファンにメッセージを送った。

「今シーズンも沢山の応援をいただき、本当にありがとうございました。今回の新型コロナウイルスで、我々も、そしてファンの皆さまも消化不良のままシーズンが終わってしまいました。先ほども申し上げましたが、今シーズンはまだ終わってはいません。試合をお観せすることは出来ませんが、他の形でお届け出来るものを模索してまいりますので、ぜひご期待ください。

試合が出来なくなったことは非常に残念ではありますが、来シーズンのことを考える時間が早くきたと、何とか前向きに捉えたいと考えています。このことを最大限に活かして、来季、ビーコル10周年となる節目のシーズンを良いシーズンにしていきたいと思います。皆さまに心から楽しんでいただける横浜ビー・コルセアーズにしてまいりますので、来シーズンもぜひ応援を宜しくお願い致します。

皆さまも、新型コロナウイルスで非常に大変な時ですが、出来る限りの感染予防対策をしていただいて、どうか健康には十分に気をつけてお過ごしください。一日でも早くこの事態が終息し、皆さまと笑顔でお会い出来る日がくることを心から願っております」今や世界中に拡がり、国難ともいえる新型コロナウイルス禍の中で、ビーコルはいま出来ることを模索している。選手たちとの契約は6月30日まで残っており、選手たちもこれまで以上にファンを楽しませることが出来ないかと懸命に考えている。これは、本来のバスケットボールの枠組みを越えて、選手とフロントスタッフが一丸となっておこなう取り組みだ。今回のことで、ビーコルの結束がより強くなるのではないかと思う。いまの苦しみを乗り越えた先に、より進化したビーコルがあると信じたい。新型コロナウイルスに打ち勝ち、再びバスケットボールを、ビーコルを楽しめる日が早く来ることを願うばかりだ。

●新型コロナウイルス(COVID-19)感染症の対応について|内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室https://corona.go.jp

●新型コロナウイルス感染症について|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html

●新型コロナウイルス感染症|一般財団法人日本感染症学会
http://www.kansensho.or.jp/modules/topics/index.php?content_id=31

●横浜ビー・コルセアーズ『ビーコルLIVE-アイランドパークステージONLINE-』
https://www.youtube.com/channel/UCckI9B4YcGgQTm95LxTRDqw/featured

【取材・写真・記事/おおかめともき】


Written by geki_ookame