世界で活躍、日本でもプレーした経験を持つフレンドリーで情熱的なヘッドコーチの素顔とは?
2020-21シーズンから横浜ビー・コルセアーズのヘッドコーチに就任したカイル・ミリングHC。10周年の節目を迎えるビーコルの新指揮官は、どんな人物なのか?今回から3回の連載でたっぷりと紹介していく。
まずは、来日前のカイルHCに1時間以上にわたって話を聞いたインタビューを前後編に分けてお届けする。前編は自身のバスケットボール哲学と今シーズンのビーコルついて、後編ではカイルHCのオフコートでの素顔に迫る。さらには同HCを招聘したひとり山田謙治アシスタントゼネラルマネージャー兼アシスタントコーチ(以下山田AGM兼AC)にカイルHCのことを聞き、客観的に紹介して頂く。
今回はその前編、海賊の新指揮官となったカイル・ミリングHCにバスケットボールについて聞く。
この記事が公開された7月27日に46歳になったアメリカ人のカイルHCは、学生時代をアメリカで過ごし、プロ選手になってからはフランスに渡って、フランスの男子プロバスケットボールリーグLNB(リーグ・ナシオナル・ドゥ・バスケット)の5チームで活躍した。1998-2000シーズンには日立本社ライジングサン(SR渋谷の前身チームのひとつ)でもプレーしている。
指導者になってからは、アメリカに帰国して学生チームを指導。2013-14シーズンからはフランスに戻り、選手時代に4シーズンプレーしたHTV Basket(Hyères-Toulon Var Basket・現:Paris Basketball)でアシスタントコーチとヘッドコーチを歴任。ヘッドコーチに就任した2015-16シーズンでは、LNB Pro B(LNBの2部リーグに相当)で、資金が決して潤沢ではなかったHTVを優勝に導き、LNB Pro A(LNBの1部リーグに相当)に昇格させた。この功績からカイルHCはこの年のCoach of the Year ProBを受賞している。直近の2017-19までは同リーグのLimoges CSP Elite(LNB Pro A)でヘッドコーチを勤めていた。LNBではユーロカップも経験している。
インタビューは、ZOOMを利用したリモート開催でおこなわれ、フレンドリーなやり取りから始まった。カイルHCはアメリカ・サンディエゴの自宅から、ビーコル側からはビーコルセンターに山田AGM兼ACも参加し、通訳は甲斐将志通訳が担当した。
山田AGM兼ACとオンラインミーティングを通じて既に良好な関係を築く
―― カイルHC、ようこそ横浜ビー・コルセアーズへ!
カイルHC:「そっちにいくのが、本当に楽しみだよ!」
―― 私もです。そしてビーコルファンもカイルHCと会うことを楽しみにしています
カイルHC:「待ち遠しいね!」
カイルHCと山田氏は既にZOOMなどを介したオンラインミーティングを何回も繰り返してきており、まだ実際に会っていないにもかかわらず、既に良好な関係を築いている。
山田AGM兼AC:「カイル!元気?」
カイルHC:「やぁケンジ!元気だよ!」
―― 山田さんとカイルHCは、普段どんなやり取りをしているんですか?
山田AGM兼AC:「カイルHCとは、まだオンラインミーティングでのやり取りだけだから、まだ実際には会っていなくて、雑談は少しだけ。もっぱらバスケットボールの話ばかりですね」
―― カイルHC、山田さんはどんな人ですか?
カイルHC:「それがファーストクエスチョンかい?(笑)。ケンジとはオンラインミーティングで最初に話した日から、いろんなことを話しているんだけど、お互いのことを順調に知り合うことが出来ていると思う。ケンジはグッドガイで、本当に仕事に対して熱心だよ。まだインターネット上の会話だけだし、英語と日本語の言葉の壁もある中で、非常にいい関係が作れてきているよ」
選手時代には日本でもプレー
―― 横浜ビー・コルセアーズのHCに就任したきっかけを教えてください。
カイルHC:「過去に日本の日立本社ライジングサン(現・サンロッカーズ渋谷)で選手としてプレーしていたことがあって、その時にいた街だったり、日本の文化に対して、とても良い思い出が沢山あるんだ。だから日本でヘッドコーチをやってみたくて、何度かトライしたんだけどその時は実現しなかった。友人のレジー・ゲーリー(元NBAプレーヤー、2011-2013シーズンに横浜ビー・コルセアーズでHCを務め、bjリーグ時代のビーコルを初優勝に導く)からも日本や横浜のことをよく聞いていたから、再び日本でヘッドコーチをやることへのモチベーションが湧いてきたんだ。今回それが実現して、本当にエキサイティングな気持ちだよ。今から待ち遠しいね!」
―― 選手時代はどんな選手だったんですか?
カイルHC:「泥臭い選手だったかな。リバウンドやルーズボールに積極的に飛び込んでいた。ディフェンスでも期待されていたと思う。選手としてのキャリア終盤ではロールプレーヤー(特定の役割を果たす選手)というか、いろんなことをチームの勝利のためにやる。そんな選手だったと思う」
―― ポジションはどこだったんですか?
カイルHC:「基本は4番(パワーフォワード)と5番(センター)だった。若かった時は4番がメインでダンクコンテストでも優勝した。年齢を重ねてスピードが落ちてからは5番で起用されることが多くなって、リバウンドを積極的に取りにいった。そういえば、15歳の時はポイントガードもやっていたな。その時にガードがやるようなボールハンドリングも経験したよ」
―― 日本では日立本社ライジングサンでプレーしていたんですよね。日本のバスケットボールにはどんな印象をお持ちですか?
カイルHC:「日本のバスケットボールリーグは、とてもプロフェッショナルだと感じた。他の国でも選手としてやっていたけど似ているところもあったと思う。外国籍選手が3人といったルールも同じだったしね。ここ最近で、日本のバスケットボールはレベルがどんどん高くなってきている。組織的なバスケットボールをやっていると思う」
ヘッドコーチの仕事はレストラン
―― カイルHCは、選手としてもヘッドコーチとしてもアメリカとフランス(フランスでは27年間)そして日本、ユーロカップも経験されていて、世界で活躍されています。様々な国のバスケットボールスタイルを経験していることはヘッドコーチとして強みではないでしょうか。
カイルHC:「アメリカでは1対1だったり、フィジカルコンタクトが多いバスケットボールだった。ヨーロッパではチームメイトを信じ切ることが大切で、パスが多い組織的なバスケットボールだった。私は過去にアメリカとヨーロッパのスタイルを経験しているから、両方の良いところをミックス出来る。1対1も使うけど、組織的なヨーロッパスタイルも使うんだ」
―― カイルHCのバスケットボールスタイルを具体的に教えてください。
カイルHC:「私はヘッドコーチの仕事を“レストラン”だと思っているんだ。キッチンには、お皿を洗う人や料理を作る人がいるよね。そういったひとりひとりの仕事をリスペクトして、これらの人たちを同じ扱いにして同じように接する。彼らの仕事全部が合わさることによって素晴らしい料理が生まれるんだよ。ひとりひとりに役割を与えて、それぞれをリスペクトすることが大事。これはバスケットボールのマネージメントでも同じなんだ。
バスケットボールには大事なことが3つある。まずはディフェンス。良いディフェンスが良いオフェンスに繋がってくる。ディフェンスに才能は必要ない。教えれば出来ることだと思っている。1対1の個人的なディフェンスも大事なんだけど、バスケットボールは5人でやるスポーツだから、チームディフェンスを上手く出来るチームが強くなって、そういったチームは勝てる確率も大きくなってくる。
2つ目はリバウンド。リバウンドから速いペースに繋げていく。リバウンドも才能は必要ない。きちんと教わって、アグレッシブにやれば誰でも出来る。
3つ目はパス。パスを多くしてドリブルの回数を減らす。パスというのは、どうすれば仲間に気持ち良くシュートを打たせられるかが大事で、お互いの信頼関係が必要になってくる。
オフェンスでは、速いテンポ、速いペースでやって、組織的な部分を大切にしながら、とにかく走る。
そして、もうひとつ大事なことがある。それは、お客さんが観ていて楽しめるバスケットボールをやることなんだ」
カイル・ミリングが掲げる3つのフィロソフィー(哲学)
―― カイルHCのホームページ・kylemilling.comを見ると、ご自身の哲学として『CREATE A TEAM(チームを作る)』『BUILD CONFIDENCE(自信をつける)』『STATISTICAL OBJECTIVES(統計的目標)』をあげていますが、これらのことについて、詳しく教えてください。
カイルHC:「まずは『CREATE A TEAM(チームを作る)』。どんなチームを作りたいかなんだけど、チームとして、選手にメンタリティを持ってもらい、常に強いディフェンスをやって、オフェンスでは速いペースでやっていく。これは最近のバスケットボールのスタイルだし、ファンの皆さんも喜んでくれる。そして、どんな状況になっても決して諦めない“NEVER GIVE UP”の精神を持つ。そういったチームを作りたいと思っている。
(注:kylemilling.comでカイルHCは、この『CREATE A TEAM(チームを作る)』について、さらにこのように記している。『私はチームを小さなビジネスと見ている。ビジネスが機能するためには、すべての選手たちがそれぞれの役割を持ち、個々が最も重要なピースであると感じなければならない。自分のチームを尊重し、気遣うことはチームケミストリーを生み出すための基本だ』)
『BUILD CONFIDENCE(自信をつける)』。これはヘッドコーチとしての仕事でもあるんだけど、選手たちに自信を持ってバスケットボールをプレーしてもらえるようにすること。選手に自信があれば、シュートも決まってくるし、プレーも楽しむことが出来る。バスケットボールを楽しむこと。これは大事なことなんだ」
―― 3つ目の『STATISTICAL OBJECTIVES(統計的目標)』では、カイルHCのHPによると『最高のディフェンスをして、リバウンドでリーグをリードし、最も多くの平均アシストを記録したい。これら3要素は才能に依存するのではなく、決断力、アグレッシブさとプライドに依存する』とあります。ビーコルではどうでしょうか?
カイルHC:「昨シーズンの横浜ビー・コルセアーズの試合映像を見させてもらったんだけど、3つの要素のうち、このチームはリバウンド数が多くて、リーグのスタッツにおいても上位の位置にあったことは良いなと思った。これはこれからも続けていきたいし、オフェンスリバウンドだけでなくディフェンスリバウンドも強化させていきたいと思っている。残りの2要素、ディフェンスとアシストでもスタッツの数字を上げて、リーグの上位に持っていきたい。
アシストについていうと、アシストはチームメイトを信じることが大事になってくる。まずは自分自身を信じることからだけど、良いアシストをするためには、仲間を信じること。これが大事だね。
『STATISTICAL OBJECTIVES(統計的目標)』であげた3つの要素、ディフェンス・リバウンド・アシストが上手く出来ているチームは、実際に強いチームになっている。横浜ビー・コルセアーズをそういったチームにしていきたい」
アメリカと横浜で離れていても、映像で常に練習をチェック
―― 横浜では、すでにチーム練習がスタートしていますが、カイルHCの意向が反映されているのでしょうか?
カイルHC:「これまでに、ケンジとショウヨウ(加藤翔鷹AC)とは、数ヶ月にわたって意見交換をして、いろんなことを話してきた。練習のスケジュールや、やっていってもらいたいことは伝えている。これにケンジとショウヨウの意見やアイディアを混ぜながら、今やってもらっているんだ。
横浜でやっている練習は、映像を送ってもらって常にチェックしている。新型コロナウイルスの影響で、練習場にこれない期間が長くあったけど、選手たちは生き生きとバスケットボールをしているね。早く、彼らと会いたいよ。待ち遠しいね」
『オレたちは悔いなくやり切った』と胸を張って言えるようなシーズンに
―― 今シーズンの目標は?
カイルHC:「一番の目標としては、試合で勝てるだけ勝つこと。そして、シーズンを後悔なく終われることだね。バスケットボールは勝ち負けがどうしてもついてくるスポーツ。全てのチームがチャンピオンを目指して闘い、シーズンの最後には、ひとつだけのチームがチャンピオンになって、他のチームは負けになる。だから、一番大事なことは、シーズンが終わった時に、自分たちが全てを出し切り、悔いなく闘えたと思えることなんだ。ホームタウンの人々、支えてくれた人々に『オレたちは悔いなくやり切った』と胸を張って言えるようなシーズンにしないといけない。そう思っているんだ」
―― ビーコルは、ここ数年で良い結果を出せていません。我々は強くなりますか?
カイルHC:「I HOPE(笑)。まだ実際にそっちに行ってチームを見ていないけど、このチームを強くしたいと思っている。元々いた選手に加えて新しい選手も入ってきた。他のチームに比べたらこのチームは、年齢的に若い選手が多いチームだと思う。その分、選手たちがどれだけハングリー精神を持ってやってくれるのか、どれだけハードワークが出来るのか、大きく期待しているし、勝つメンタリティを選手とスタッフがチーム一丸となってやっていければ、強いチームになっていけると思う」
インタビューの前編はここまで。次回の後編では、カイル・ミリングHCの素顔に迫る。
【インタビュー/おおかめともき・写真画像提供/©横浜ビー・コルセアーズ/©kyle milling】
・横浜ビー・コルセアーズの新指揮官カイル・ミリングHCに聞く【後編:プライベート編】
http://b-cormagazine.com/interview/2020/07/28/milling-2
・カイル・ミリングHCを招聘したひとり山田謙治AGM兼ACに聞く
http://b-cormagazine.com/interview/2020/07/29/milling-3
・カイル・ミリングHCホームページ
http://www.kylemilling.com