ビーコルの新指揮官 福田将吾HCが示す逆襲へのビジョン


ワンチームで。ウィスマン前HCが残した財産を継承し、独自のイズムを加えてさらに進化させる。

横浜ビー・コルセアーズは、ホーム大阪戦GAME1がおこなわれた2月1日に、トーマス・ウィスマンHCとの双方合意による契約解除と福田将吾ACのヘッドコーチ就任を発表。就任したばかりの大阪戦GAME1の試合後会見で福田HCに聞いた。また指揮を執るようになってからここまでのコメントからも、新体制になったビーコルのこれからの闘い方を展望する。

ワンチームでいきたい

福田は、今季からビーコルのアシスタントコーチに就任。鹿屋体育大学男子バスケットボール部でヘッドコーチを務め、2011年からはアメリカの大学で4シーズンにわたってアシスタントコーチ、2012-13シーズンでは全日本代表男子チームのコーチングスタッフにも加わっていた。Bリーグになってからは、仙台89ERSでアソシエイトヘッドコーチ、2017-19シーズンでは島根スサノオマジックでアシスタントコーチを務めていた。

「私は、かつて10年前に、大学でヘッドコーチを2年間させていただいたことはありますが、プロのBリーグでヘッドコーチをやることは初めてです。そういった意味では、私がチームを引っ張っていくことも大事なのですが、みんなで一緒にチームを作り上げていこうと考えています。選手、チームスタッフだけでなく、フロントスタッフ、ブースターの皆さんも含めた“ワンチーム”で作り上げていきたいと思っています。ですので、選手たちの意見をなるべく聞くようにしたいです。それを反映するかしないかは、私の判断ですけど、彼らの意見を聞きながらやっていきたい。そう思っています」(福田HC)

指揮を取り始めてから2戦目で川崎から初勝利。連敗を「11」で止める

福田がビーコルの指揮を初めて執ったのは、11連敗中の第17節アウェー新潟戦から。SR渋谷戦GAME2以来欠場していたトーマス・ウィスマン前HCの代行としてだった。代行HCになってからの2戦目、平塚でおこなわれたホーム川崎戦でビーコルは劇的な逆転劇で川崎から初勝利を収め、11連敗を止めた。

「選手たちが、ウィスマンHCが普段から仰っていたディフェンスから走るチーム、ディフェンスから強度を上げてビッグマンもしっかりと走るということを40分間にわたってやり続けたことが、勝利に繋がったと思います」(福田HC)

あと一歩だった琉球2連戦と富山戦「勝てば、何かが変わる」

川崎戦初勝利の勢いを持って沖縄に移動して臨んだ2連戦では、西地区の上位を争う琉球と接戦を演じながらも2試合ともに惜敗の悔しさを味わった。続く闘いの地、富山への移動を前にした福田HCは、惜敗が続くこの状況に、悔しさを覗かせながらも手応えを感じていたようだった。「勝てば、何かが変わる。必ず勝って帰ってくる」と意気揚々と遠征に出た福田HCだったが、富山との1試合もやはり惜敗に終わってしまう。この試合も勝利まで、あと一歩だった。

HC就任後の初陣では勝負どころで大胆采配

それでも福田HCは、冷静かつ緻密な采配を見せて、横浜に戻ったホーム大阪戦GAME1で再び勝利を掴んだ。3連敗で迎えた第21節2連戦、横浜国際プールに西地区首位の大阪を迎えた初戦もやはり激しい接戦になった。琉球と首位を争う大阪を相手に、前半はビハインド展開になったが、ビーコルは3Qの立ち上がりで6点ランを決めるなどしてリードを奪うと、以降4Q終盤まで数度の同点とリードチェンジを繰り返しながら一進一退の攻防戦に持ち込み、4Q中盤で逆転に成功。以降で食らいつく大阪から僅差のリードを守った。福田HCは、3点リードの残り12秒の勝負どころで、この試合がデビュー戦だった特別指定選手(青山学院大学3年)の赤穂雷大を投入。アイラ・ブラウンにマッチアップさせる策に打って出た。赤穂は大阪のセットプレーを読み切り、ブラウンからスティールを奪うとそのままドライブからレイアップを決めて勝利を決定付けた。

「赤穂選手がアイラ・ブラウン選手をいい形で止めていたので彼を入れる決断をすぐにして、ベクトン選手を下げて赤穂選手を入れたんです。結果的には、相手も予想外だったのか、あのスティールに繋がりました」(福田HC)

ウィスマンHCのディフェンスを独自の手法で昇華

福田が指揮を執るようになってから2度目となるこの勝利は、2Qと3Qでリーグ屈指のオフェンス力を持つ大阪の得点を15点と12点に留め、トータルスコアでも70点に抑えたディフェンスも勝因になっていた。

「今日(大阪戦GAME1)の目標として、失点を73点以下に抑えることがありました。また大阪さんは、オフェンスリバウンドも非常に強いチームです。その大阪さんのオフェンスリバウンドを7本以下に抑えることも目標でした。結果、70失点で、取られたオフェンスリバウンドは6本と全ての目標がクリアされました。こういったところでは、非常に手応えを感じています」(福田HC)

ディフェンスではゾーンも織り交ぜて、大阪を翻弄した。

「トーマス・ウィスマンHCがやられていたゾーンとは、少しシステムを変えている部分もあります。まだまだアジャストしきれていない部分もありますけど、今日(大阪戦GAME1)は、テンポを変えたいことからゾーンを使いました」(福田HC)

ディフェンスで好結果が出てきていることには、ある秘訣があった。福田は川崎戦の勝利後にこのように明かしている。

「選手たちに『疲れたらディフェンスを変えるから』と話して、全員でつないでいこうという話をしていたんです」(福田HC)

選手たちに負担やプレッシャーを与えない起用方法が、好結果に繋がっていたのだ。

選手たちに考えさせる“シンキング・バスケットボール”

惜敗が3つ続いた中で福田HCは、大阪戦に向けた準備期間中に練習だけでなく、頭の練習、グループミーティングもおこなっていた。

「富山戦ではファウルが多くなり、フリースローで非常に大きな差がついてしまいました。正直、不要なファウルも多くあって、そのためにディフェンスの強度が落ちることも多くありました。このことを私から伝えるのではなくて、選手たちを3つのグループに分けてミーティングをさせました。『僅差で負けた原因は何だと思う?』ということを各グループで考えてもらい、それぞれ出た答えを全員で共有したんです。その結果は、やはりファウルをしないことでした。『1Qで強度が落ちてしまう』『セカンドユニットが出てきても強度を落とさない』では、そのためにどうやったら良いのか?『それは、やっぱりディフェンスだよね』『ディフェンスをしっかりとやればクロスゲームを勝てる』選手たちから出てきたこの答えは、私も思っていたことでした。これを今日(大阪戦GAME1で)やることにしたんです。結果的に勝利につながって良かったと思っています」(福田HC)

チームに出てきた粘り、取り戻した競争力

今季4度目の連勝を狙ったGAME2では、立ち上がりから3Pシュート攻勢を仕掛けて主導権を握り、拮抗した展開になりながらも、粘りのオフェンスで3Qまでリードを維持。4Qで大阪に同点からリードを奪われたものの、クロスゲームに持ち込んだ。最終盤で大阪に勝ち越しを許したが、ビーコルは粘りを見せて同点に追いつき、オーバータイム戦に持ち込んだ。しかし、オーバータイムでディフェンスが失速してしまい、7点差で惜敗している。

「大阪さんは、延長戦になった時でも45分間を闘えるようになっています。ウチが延長戦で失速してしまったのは、エナジー切れもひとつ考えられます。そこは、私のベンチ起用であったり、延長戦でも選手を交代させる勇気が必要だったと感じています」(福田HC)

タイムシェアを効果的に使って選手のモチベーションを上げる

福田HCが指揮を執り始めてから対A東京2連戦までの戦績は2勝7敗とはいえ、大阪2連戦までのゲーム内容は決して悪くなく、チームに粘りと競争力が出てきたことを示した。積極的に且つ効率的に選手を交代させて起用するタイムシェア、分析担当に加えて参謀役にもなった加藤翔鷹ACからもたらされたスカウティングデータをもとに緻密に練られた戦術。これら全てが功を奏していた。

「私は、タイムシェアをひとつ大事にしています。選手たちひとりひとりに対して、チームにとって、それぞれの選手たちが大事なピースなんだということを認識してもらいながら、全員で頑張っていきたいんです」

「タイムシェアをすることで、選手それぞれのモチベーションが上がってきます。このタイミングで自分が出ていくんだ、このタイミングで自分が下がるからここまで頑張ろうといったたすきリレーをいま作っています。練習でも、固定メンバーでやらないようにして、いろんなチームをミックスしておこなっています。Aチーム、Bチームといった概念を少し外そうと思っているんです」(福田HC)

試合中では分析担当の加藤翔鷹ACと意見を交わしながら采配する。福田HCにとって加藤は名参謀役だ


このタイムシェアは福田HCの持ち味といえる。

「試合中の選手たちが『ここで代えてくれるかな?』『ここまでやって、次は彼にたすきを繋げば、彼がやってくれる』と思えるたすきリレーが出来るようになりました。このことが、ディフェンスの強度向上に繋がったんだと思います」(福田HC)

初めて大差をつけられ連敗したA東京2連戦

大阪2連戦後にアウェーで挑んだA東京との2連戦は、掴んだ手応えが試される試合になっていた。しかし結果はGAME1で24点差、GAME2では35点差を喫してしまい福田が指揮を執るようになってから初めて大差での連敗を経験した。ただ、GAME1ではここまでの手応えが形になった場面もあった。特に4Q中盤では速いテンポからオフェンスを展開して5点ランと7点ランを決めたオフェンスがそうだった。

「我々は、やはりハーフコートバスケットのチームではないので、テンポを如何に上げていくかというところと、ゲームのペースを如何に上げていくのかというところが勝敗の鍵になってきます。そういった意味ではGAME2に繋がる終わり方が出来たと思っています」(福田HC)

そのGAME2では、1Qでクロスゲームに持ち込んだものの2Q以降で徐々に点差が開いていった展開で10点差を維持して後半戦での逆転にかけた。その大事な3Qの立ち上がりでビーコルはシュートが決まらず、その間で3Pシュートを中心に得点してきたA東京に20点台、30点台と引き離されていき、最終的には35点差という大敗になってしまった。それでも福田HCは前を向いて、こう語った。

「自分たちが良くなかった点と、自分たちのバスケットとは何かをしっかりと見つめ直していきます。逆にいえば、これが表現出来ている時間帯では、アルバルクさんとも互角に渡り合えていました。これを40分間突き通す強さが、アルバルクさんのほうが遥かに勝り、我々は崩れた部分がありました。これを、5分ではなく、10分ではなく、40分間でやる。出てきた選手全員が変わらない共通理解で出来ていくことが大事だと思っています」

「1Qも決して悪い形ではありませんでした。シュートが入るか入らないかです。シュートの精度を高めていかないといけません。2Qでは、レジナルド・ベクトン選手も含めたビッグマンが走ってそのままレイアップといったウチが求めている形が出せました。こういったことを今後も出していければ、安定性に繋がってくると思います」

「我々は下を向くわけにはいかない。ディフェンディングチャンピオンのアルバルクさんとの試合を糧にして、次の試合に向けて、継続してステップアップしていきたい」(福田HC)

HCになった福田が目指す形。チーム全体で動き、チーム全体で点を取っていく

トーマス・ウィスマン前HCのもとでアシスタントコーチを務めていたことは、HCになった福田の財産になっている。

「アシスタントコーチをやっていた時には、選手たちがどう思っているのかをいろいろと彼らに聞いていました。ヘッドコーチになったら、選手たちは話辛くなるのかもしれないですけど、ヘッドコーチと選手といった離れた間柄にはなりたくない。腹を割って話せられる間柄になりたいです。これは私がアメリカの大学でアシスタントコーチとして働いていた時にヘッドコーチから学んだことです。“ヘッドコーチと選手がフラットな関係性”を作っていきたいと思っています。それが、いま良い形で出てきていると感じています」(福田HC)「Bリーグでは外国籍選手のインパクトが強いです。外国籍2人で60点取って、あとは日本籍選手が20点といったゲームが多いと思います。私は昔、プリンストン・オフェンスというスペーシングを使ったオフェンスをやっていたのですが、チーム全体で動いて、チーム全体で点を取っていく。誰かひとりが40点取るようなバスケットボールではなくて、ふた桁得点出来る選手が5人、6人出てくるようなチーム作りを目指しています」(福田HC)

プリンストン・オフェンスはアメリカ・プリンストン大学でコーチを務めていたピート・キャリルが発案した戦術。コート上の選手全員がチームルールを守りながらも常に動き、オフェンスに必要なスペースを作り出すことで得点を入れていくオフェンスシステムのことをいう。

ウィスマン前HCのバスケットボールを尊重して継承する

トーマス・ウィスマンがビーコルに残したものは大きい。練習の大切さ、個ではなくチーム全員で闘うバスケットボール、そしてディフェンス重視。これらはチームのかけがえのない財産になっている。これを福田は継承していく。

「ウィスマンHCが残してくれたもの、今まで培ってきたバスケットボールを尊重して、しっかりと表現しながら、精度を高めていきます」(福田HC)

大きな声が出て、より活発になった練習

福田HCになってから、チームの練習にいってみると、まず印象に残るのは声の多さだ。練習場のコートには激しく動き回ってコーチする福田の大きな声が響き渡り、選手たちの声も大きく出て、より明るく活発になっていた。

「(惜しい負けが続いていても)選手たちは、自分たちにベクトルを向けてくれています。これは私自身も含めて成長に繋がることです」(福田HC)

目指すものは、残留プレーオフ回避ではない

今季、『BE COURAGEOUS(=ビーカレイジャス)』のスローガンのもとに、個ではないチーム全体で闘うことを選んだビーコルのチーム力は、シーズン中の指揮官交代という苦難を乗り越えて、さらに高まったと言っていいだろう。若き指揮官となった福田HCの目標は、Bリーグになってから3季続く残留プレーオフ回避ではない。

「差が開いてきてはいますけど、2位の三河さんを何とか捉えて、チャンピオンシップに出ることが目標です」(福田HC)

新指揮官 福田HCのもとでビーコルは、選手、スタッフ、そしてファンがひとつになったワンチームで、ここからの逆襲に打って出る。

【取材・写真・記事/おおかめともき】


Written by geki_ookame