ビーコルブースターをB2に落とすわけにはいかない。唯一無二の海賊たちのエースがB1残留決定後に語った想いとは。
5月19日片柳アリーナでおこなわれたB1残留プレーオフ2回戦で、富山グラウジーズとの激戦を制し悲願のB1残留を果たした横浜ビー・コルセアーズ。選手、チームスタッフ、ビーコルブースターが残留の歓喜を分かち合った直後にエース川村卓也が会見をおこなった。
昨年と同じ5月19日に、同じ相手富山グラウジーズと雌雄を決した運命の一戦は、最後の最後まで勝敗の行方が分からない激しい接戦となった。ビーコルは4Qの終盤に追いつくと、川村の絶妙なパスからジェフリー・パーマーが3Pを沈めて勝ち越し。以降の約1分間を今季の集大成ともいえるチームバスケで守り切り、B1残留を決めた。
会見で川村は、まずこの試合をこう振り返った。
「最後の試合も、今シーズン同様に、自分たちがリードしたあとで点数を守れず、1回逆転されるという自分たちらしいゲーム展開になってしまった」
「結果3点差で勝てましたが、本当にどちらに転ぶか分からない展開になり、観ている人からはとても面白いゲームだったと思います。ただ、やっている方からすると、とっても嫌なゲームでした」
1Qでビーコルは川村とサビートらが得点して14-0のランを成功させる。これで一気にリードを広げ主導権を握ったが、2Qの終盤から3Q中盤に掛けて得点が停滞。グラウジーズに17-0のランを許し、勝ち越を許してしまう。
「後半は、自分たちからリズムを失ってしまって、点数が入らないことで慌ててしまいました。起点というのがどこにもない状態になる、いつもの流れになってしまった」
しかし直後に川村が3Pを沈めてビーコルが再逆転。ここから激しいクロスゲームになりスコアが行き来したが、ビーコルはこの苦しい時間帯を我慢し続け、4Q終盤の反撃に繋げた。
そして4Q残り1分10秒、川村の絶妙なアシストから、ジェフリー・パーマーが沈めた3Pシュートでビーコルは遂に勝ち越しに成功する。
「ゲーム終盤の4Qに、インサイドやウイングからのアタックで上手く起点を作れました。これは今シーズンダメなりにも、自分たちがどういう風に闘わないといけないのかということを、ゲームの中で修正しながらやってこれたからだと思います」
川村はこの試合で、両チーム最長の38分30秒のプレータイムで粉骨砕身し、チーム最多の22得点を挙げた。
「僕が得点に絡むことが出来れば、きっと流れがくると思い、疲れている中でも必死にゴールにアタックしたつもりです」
今季のビーコルは、川村頼みのチームから、徐々にチームバスケのチームへと変貌していった。B1残留を決めた勝利はまさにそれだった。川村は残留プレーオフ1回戦までの数戦で、かつてない低迷期に陥っていたが徐々に調子を取り戻して、この2回戦で完全復活し、エースとして持ち前のキャプテンシーを発揮してチームをまとめあげた。
「僕は自我が強いプレーヤー、エゴが強いとも言われていますが、僕がこのチームにいる限りは、僕が引っ張らないと、このチームは良くなっていかないと思っています。それぐらい責任感を持ってやっているつもりです」
「勝ちに向かう姿勢だったり、アタックする気持ち、チームを引っ張ろうする気持ちをコートの上で出し続けて行く。これが出来なくなった時は、僕はコートを去るだけだと思っています」
「責任感を常に持って1年間やり続け、周りに声を掛けて来たことで、将司(細谷将司)、凌、丈太郎(満田丈太郎)が、今日のような大切なゲームでも自分を見失わないでプレー出来るようになったことに繋がったと信じています。自分なりに周りを引っ張っていけるようなパフォーマンスを、またコートの上で出していきたいと思っています」
ティップオフ直前、地下3階にある片柳アリーナには、両チームブースターの怒濤ともいえる猛烈なブーストが轟いていた。川村はその中でビーコルブースターからの「ゴーゴービーコル!」の大声援を体全体で浴びていた。
「このアリーナでやるのは初めてでした。歓声がコートに凄く跳ね返ってくるんです。相手の声援もそうだったんですが、非常にインパクトが強いアリーナだと感じました」
「試合前コーチ陣から、ファイナルのような、優勝を賭けたような闘いをしようと言われていました」
「僕も今シーズンのゲームを今日で終わらせたいという気持ちが非常に強かった」
「本来の自分はこういったゲームは楽しめる性格だと思って、しっかりと気持ちを準備してこのアリーナに来ました」
大ブーストを浴びた川村は、体を揺らしノリノリの仕草を見せた。片柳アリーナの7割を埋め尽くしたビーコルブースターが作り上げたあの怒濤の雰囲気が、ビーコルのエースを自然体にさせ、低迷期のことなど忘れさせるほどの躍動を生んだ。
「自分なりには非常にリラックスしていました。それが良いパフォーマンスに、自分のあの雰囲気に繋がったんだと思います」
まさにビーコルブースターのブーストが、海賊のエースに大きな力を与えた光景だった。川村は今シーズンを最後まで共に闘い、力を与え続けてくれた彼ら家族に感謝のメッセージを送った。
「本当に、昨年と同じことを繰り返した1年間で反省の気持ちが強いです。僕は、この声を出して、アリーナの雰囲気を作れるビーコルブースターをB2に落とすわけにはいかないと常に思っていました」
「ビーコルブースターは自慢のブースターです。ひとり、ひとりの顔を覚えているわけではないけど、みんなの声は僕らに届いているし、最後の試合ぐらいは自分たちらしく応えたかった」
「皆さんに支えられて、喝を入れられて、背中を押されて過ごせた1年だと思っています。本当に感謝の気持ちで……一杯です」
最後の言葉を語った川村の声は少し震えていたかもしれない。
「終わり良ければ全て良しじゃないけど、勝ちで今シーズンを締めくくれたのはこのチームにとって大きい」
これは、B1残留を決めたあとのヒーローインタビューで川村が残した言葉だ。ビーコル唯一無二の絶対的エース川村卓也は、ビーコルブースターと共に闘ったこの1年、彼らと共にB1残留を果たした喜びを心から噛み締めていた。次は優勝での歓喜をみんなで噛み締めたい。
【記事・取材・写真/おおかめともき】