「自分の出したこの結果は受け入れがたい」「いま自分が持っているものを全てぶつけて、横浜ビー・コルセアーズをB1に残すだけ」
残留プレーオフ回避をかけて、もうあとがなくなっていたホーム最終戦、富山とのGAME2を終えたばかりのベンチで倒れ込んだ横浜ビー・コルセアーズのエース川村卓也。その表情は死力を尽くしたといわんばかりだった。
ビーコルは、この試合で最大19得点、約39分間にわたってリードしながら、最後の1分間で逆転負けを喫し、B1残留プレーオフ回避のチャンスを得てから泥沼の11連敗。翌日の試合で秋田が勝利したことで、B1残留プレーオフが決定してしまった。
「39分間良くても、最後の1分間で相手が勝ってしまったら、相手に1点でも多く取られてしまったら負け。受け入れがたい負けですが、ポジティブに捉えれば、成長を感じられた試合です」
この手痛い逆転負けを川村はこう表現したが、試合後のセレモニーで見せた表情は怒りに満ちていた。
「僕がこのチームに来てから3シーズン目を闘っていますが、過去2シーズンを振り返っても、正直、あまり成長を感じられない3シーズン目を過ごしてきました」
「それでも、結果が出ないながらも、結果を追い求めていく姿勢がチーム内にはありました。それを上手く形に結びつけて、(レギュラーシーズン最終戦の)ホームのコートでブースターのみんなに笑顔で帰って欲しかった。そういう想いが、今日のゲームでは強かったです」
「その良いエナジーが前半で出た。でも勝ち方の知らないチームの弱さが露呈してしまった」
「相手のほうが勝ち方、闘い方を知っていた。勝ちに近づく方法を知っているのが富山だったということです」
会見場でこう語る川村の表情と口調には、悔しさ、無念さ、怒り、失望が入り混じっていた。ビーコルのエースは葛藤している。
「ひとつのシュート、ひとつのプレーの大切さだったり、エゴを捨ててやらないといけない部分と、エゴを持ってでも強気で攻める部分の判断ミスというのが、相手よりも多かった」
「前半で自分たちがやっていた良かった部分を、自分たちは忘れてしまい、相手のペースに合わせてしまった。コートの中で相手の流れを切ることが出来なかったのは、長い時間コートに立っていた僕の責任でもあります」
ビーコルは、3季連続でB1残留プレーオフに出場することになった。この結果は、川村にとって忸怩たる思いだという。
「僕個人としては、今季は絶対に残留プレーオフに行ってはいけないと思って、このチームと契約しました。その中でこの結果を招いたということは受け入れがたいものがあります」
「僕は残留プレーオフにいくこと自体が耐えられない。自分の出したこの結果を受け入れがたいというのが一番の気持ちです」
「3回同じことをやってはいけないと思う。組織としても、プレーヤーとしてもそうです」
川村は、話しながら葛藤しているように見えた。これまで2度経験して勝ってきた残留プレーオフをどう闘うかの問いに対しては、こう答えている。
「このチームは、残留プレーオフでの経験値を持っていると思う。あの緊張感であったり、闘い方や、雰囲気をこのチームが理解しているのは強みだと思っています。だけど、絶対にやれるとか、勝ち切れるといった自信は、今の僕にはありません」
この率直で正直な言葉は、川村の発言では珍しくポジティブではないものだが、それだけ3度目の残留プレーオフ出場が耐え難いということなのだろう。だが、そこはエースであり、これまでのバスケ人生で優勝も経験し、数々の修羅場を乗り越えてきた川村卓也だ。グッと前を向いてこの言葉を続けた。
「自分がやれるという自信はあります。自分の持てるパフォーマンスを勝負時に出すということは自分にしか出来ないと思っています。自分自身を引き上げることは僕にしか出来ないこと。大事な試合で、しっかりとしたパフォーマンスをする自信は持っているつもりですが、安易に勝てるとは思っていない」
「僕自身、B2に落ちたいと思っている選手ではない。自分が属したチームをB2に落とすわけにはいかない。僕はこのチームを必ずB1に残すために、全力でやりたい。いま自分が持っているものを全てぶつけて、横浜ビー・コルセアーズをB1に残す。それだけです」
11連敗中の現状を打破するためにチームはどうしていったらいいのか。川村はこんな提言をしている。
「自分たちの良いところを、もう一度考え直す必要があります。自分たちが良い時に、どんなバスケットをやっているのかということを、オフにしっかりと振り返って、良かった時のイメージで次の練習に来ることが大切だと思う」
この11連敗中、強豪栃木を苦戦させた場面もあり、富山戦GAME2では良いことのほうが多かった。
「決して、全てが悪いわけではない。チャンピオンシップに出るチームに対しても、追い詰めた時間帯は何度もあった。その時に自分たちがどんなバスケットボールをやっていたのか、もう一度冷静に自己分析して、自分たちの強みを理解して、次の試合に照準をあわせれば、きっと良い試合が出来ると思う」
「エナジーを出すとか、集中するということは当たり前のこと。なぜ富山をあれだけ苦しめたのか?なぜ三河を苦しめた時間帯があったのか。それらをもう一度、コーチ陣も含めて、自分たちの自己分析をすれば、良い時間帯が増えると思う
いま、川村卓也はビーコルブースターへの想いをさらに強くしている。共に闘う仲間たちへ送られたメッセージには、ビーコルのエースとしての素直な想いが込められていた。
「僕がこのチームに来て3年間、なかなかホームで勝てず、勝率もあがらなくて、そういった本当に苦しい中で、ダメながらも皆が期待してくれている。そういった想いが、横浜国際プールで初めての(栃木2連戦で記録した)5000人以上の集客に繋がったと思います」
「本当に皆さんの声や気持ち、熱いものを毎回のゲームで頂いています。それに応えられないのが、本当に悔しい」
「このチームは本当に良くなっていく。このチームが持っているポテンシャルは、まだ見え隠れしています。けれども、きっと良いものが根深くあると思う。僕はそう思っています」
「チーム、組織を育てるのも、刺激を与えてくれるのも、ブースターさんたちの声だと思います。どのチームのブースターにも負けない熱い想いを持っているビーコルブースターに勝ちを見せたかった。けど、なかなかそうもいかなくて、苦しい想いをさせた3シーズン目でした」
「勝つことだけが全てではないと、やさしく言葉をかけてくれる人もいます。けど、僕らの世界では勝つことが全てといったところがあります。みんなの想いに、今日も応えたかった。毎ゲーム、応えたいと思っています。ブースターのみんなが『新潟にいきます』『次のアウェーにいきます』と声をかけてくれている時点で、ビーコルブースターのほうが次のゲームに気持ちが向かっていると思ったし、刺激を受けました」
「でも、僕らがブースターから刺激を受けるんじゃなくて、僕らがブースターに刺激を与えられるようにならないといけない。最後までみんなの笑顔を奪わないように全力で自分に出来ることをやりたい」
B1残留プレーオフの出場は決まった。耐え難い、受け入れがたい残留戦だが、決戦の日を迎えれば、これまでがそうであったように、川村はその素晴らしいパフォーマンスでビーコルを牽引してくれるだろう。エースが持つ忸怩たる思いは、3季連続でB1残留を決め、みんなを笑顔にする大歓喜を巻き起こしてこそ晴らされる。
【記事・取材・写真/おおかめともき】
レバンガ北海道と雌雄を決するB1残留プレーオフ1回戦は、4月26日(金)、27日(土)に、ホーム「トッケイセキュリティ平塚総合体育館」でおこなわれる。
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「B1 残留プレーオフ 1回戦 2018-19」チケット販売スケジュールのお知らせ
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