ディフェンスの将が挑戦する個ではないチーム力で勝利するバスケットボール。
横浜ビー・コルセアーズは変わろうとしている。7月1日の新シーズン始動日には、クラブ創設以来初めてとなるチームスローガン「BE COURAGEOUS(=ビーカレイジャス)」を掲げ、強い意志を表明。では具体的に現場では何がおこなわれているのか、ビーコルはどうなっていくのか、ビーコルは強くなるのか、変革のキーマン4人、河内敏光GM、トーマス・ウィスマンHC、今季新たに就任したビーコルOB山田謙治チーム編成・強化担当兼アシスタントコーチ、植田哲也新代表取締役に話を聞き、全4回の連載で横浜ビー・コルセアーズのBリーグ4シーズン目「BE COURAGEOUS(=ビーカレイジャス)」を俯瞰する。
第2回はトーマス・ウィスマンHCのインタビュー。ビーコル2シーズン目となる指揮官が今季のビジョン、向かうべき先の海図を示す。
勝てないのなら変化させる。
昨オフに大きな衝撃を呼んだ川村卓也、細谷将司、高島一貴、湊谷安玲久司朱、主力4選手の退団はチームが変わっていくことを強く示した意思表示であり、覚悟のあらわれだったといえる。ウィスマンHCはこう話す。
「ここまでの3年間で我々は勝てていない。勝てないのなら、何かを変えなければならない。変わることが必要だった」
新しいチームに求めたものは、若さ、走ること、そして、昨シーズン出来なかったディフェンスの徹底だった。
「若い選手で、起動力のあるさらにダイナミックなチームを作りたかった。新しいチーム作りでは、ディフェンスが出来る若い選手を集めた。まず、ディフェンスが出来ること。それが私の中での大前提だった」
昨シーズンの低迷は何が問題だったのか?
昨季においてウィスマンHCは、幾度となくディフェンスが出来ないことを嘆いた。トーマス・ウィスマンは栃木を初優勝、Bリーグ初代王者に導くなど数々の輝かしいコーチ歴を持っているヘッドコーチだが、ビーコルでのHCキャリア初年度の成績が、チームのBリーグ発足以来で過去最低勝率になってしまったことには忸怩たる思いがあるだろう。その原因は、ディフェンスと、チーム内のコミュニケーション不足にあった。
「チームとして、ひとつになり切れなかった。今シーズンはまとまれるチームを作る。そして、やはりディフェンスだ。昨シーズンはディフェンスへの意識が少なかった。今シーズン集めた選手たちは、ディフェンスに対するメンタリティを持っている」
今ある“文化”を一度壊し、新しい“文化”を根付かせる
ディフェンスとコミュニケーションを徹底する。取り組むべきことは明確だ。ではビーコルはどこを目指していくのか。
「私が目指すバスケットボールは、昔から変わっていない。しっかりとディフェンスをやって、速いテンポで走っていくバスケットボールだ。これが出来るチームを作るにあたって、走れて、スピードがあり、しっかりとしたディフェンスが出来る若い選手たちを加入させた。我々がやるべきことは、ディフェンスからしっかりとやっていくこと、走ること。ディフェンスからオフェンスを作っていくことだ」
「新しい選手が入ることで、自分たちが持っているものを一度壊す。そこから新しいものを作り出していく」
これは何を意味するのか。ウィスマンHCはさらに詳しく説明する。
「選手とコーチが作り上げていくものがチームの“文化”だ。まずコーチが“文化”を提示する。それを選手たちがどれだけ徹底出来るか、私が求めるものを選手たちがどれだけ体現出来るかだ。チームルール、ハードワークを徹底させて、それをチームの中に根付かせる。それがチームの色となり、チームの“文化”になる。今までの横浜にあったものは、決して悪い“文化”ではない。ただ、私が目指す“文化”ではなかった。だから、新しい血を入れた。チームを一旦ゼロに戻して、リセットさせる必要があったんだ」
「今回のチームでは、選手たちに私の考えをしっかりと伝えて、私は選手たちのリアクションをしっかりと受け止める。こうしたコミュニケーションを徹底させて、チームがひとつにまとまる。そういった“文化”をこのチームで作り上げていくつもりだ」
トーマス・ウィスマンが信じるディフェンスの形
ディフェンスで勝ってきたウィスマンHCが考えているビーコルが変わるために必要な「新しい“文化”」とは何か。その答えから今季の闘い方が見えてくる。
「様々な形のディフェンスを使っていくのが、私が信じているディフェンスのやり方だ。マンツーマンが出来ていないとゾーンに進むことは出来ない。まずは『マンツーマンがどこまで徹底出来るか』から初めていく。マンツーマンが徹底出来れば、ゾーンは我々の武器になる。チェンジアップやゾーンを駆使して、いろんな形のディフェンスを相手に見せながら、困惑させられるようにしたい」
ウィスマンHCは昨季において、ゾーンディフェンスを多用した。そのため「ゾーン=トーマス・ウィスマン」のイメージがついた。
「私は、ゾーンディフェンスが得意なコーチと思われているが、そうではない。そういったイメージになったのは他のチームでゾーンを使って成功させた例があるからだと思う。だが、私の中では別にそういった考えがある訳ではないということを言っておきたい。『マンツーマンが出来ないとゾーンは出来ない』これが私の考え方だ」
「ゾーンが出来るチームは、マンツーマンが徹底出来ている。その例が(ウィスマンがHCを務め、優勝出来るチームに育て上げた)栃木(現・宇都宮※)だ。あの時の栃木では、チェンジアップ、マンツーマン、ゾーンがしっかりと使われて、ディフェンスが徹底出来ていた。あの栃木でやったディフェンスを今季の選手たちに落とし込んで、横浜の“文化”になるようにしていきたい」※ブレックスは今季からチーム名称を「リンク栃木ブレックス」から「宇都宮ブレックス」に変更している。
個ではないチーム力でどれだけ点を取れるかという挑戦
今季のチームはディフェンス寄りといえる。そのために得点力を懸念する向きもあるが、指揮官は挑戦でもあるという。
「新しいチームが何点取れるか?今はまだその目標が立てられないし、それにこだわる必要はない。火力(得点力)が足りないと思うかもしれない。だが、多くの点を取れる選手がひとりだけのチームは強いチームではない。チーム全員がまんべんなく点を取れるチームが強いと考えている。このことが出来れば、相手は守り辛くなるし、自分たちの得点にも繋がってくる」
「チームで得点を取るイメージだ。選手同士がどれだけ、お互いのオフェンスをエクスキュート(遂行)出来るのか。エクスキュートしたシュートをどれだけ決め切ることが出来るのかが重要になってくる。個の力で打開するのではなく、チーム力でどれだけ得点出来るか。ディフェンスをどれだけアグレッシブにして点数に繋げられるか。お互いがパスを回して、どれだけお互いのためにオープンなシュートを作れるのかということに着目していく。今シーズンは、個ではないチームの力でどれだけ点が取れるかの挑戦でもある」
チーム全員で闘う
「スタートの選手もだが、ベンチの選手も重要だ。ベンチからの力、ベンチからの貢献度、ベンチも含めたチーム全員が活躍出来ることが重要になってくる。チーム力で闘うということは、選手全員が、個々の仕事を理解しないといけない。ディフェンスは一人では出来ない。5人でしっかりとしたディフェンスをおこなうことが大事だし、5人でオフェンスを作ることも大事だ。誰かひとりに頼ってしまうと、そこが潰されてしまい、得点も出来ずに苦しい状況に陥ってしまう。そうならないようなチーム構成にする。強いチームは、チーム全体でまんべんなく得点が出来て、いろんな選手がシュートを打てることが明確になっている。『個ではない全員で闘うバスケットボール』を今シーズン目指していく」
「私がこれまでに指揮を執ってきた中で、一番オフェンスが優れていると思ったのは、6、7人が毎試合二桁得点するチームだ。コートにいる選手に加えて、ベンチにも二桁得点出来る選手が、さらにあと2、3人控えている。これが理想だ」
「チームで、得点のバラツキがあれば相手は守り辛くなる。誰かひとりだけを潰せば、チームを潰せるという状況にはならない。どの選手が今日、当たっている選手なのか分からない、どの選手がシュートを打ってくるか分からないといった状況を作ることで、相手は全員を守らなければならなくなる。こいった状況になればなるほど、いろんなところがオープンになってくる。私はこれを目指している」
今季のゴールはどこにある?ビーコルが向かうべきところ
残留プレーオフにいかないことはクラブとしての最低限の目標だが、指揮官は、今季の目標(ゴール)をどう設定しているのか。ウィスマンHCの考え方はいたって現実的だ。
「我々には、まだ明確なゴールがなく、可能性しかない。大前提は昨シーズンよりも勝つこと。そこから、このチームがどれだけ上達出来ていくかだ。まずは、昨シーズンよりも勝って良い結果を出すこと。チームのポテンシャルを最大限にまで引き出せるようにしていく」
「まず、このチームが持っているポテンシャルを選手たちに気付かせる。チームのポテンシャルを引き出すことが出来れば、勝利はあとから付いてくる。結果よりも、その“過程”が大事なんだ。今シーズン、それをしっかりとやっていきたい」
「私はチームのゴールを決めて選手に伝えることはしないし、これまでも最初から何勝するかといったことは決めないんだ。そのチームが持つポテンシャルを最大限に引き出すことを一番の目標にしてやっている」
「チームが成長するにつれて、ゴールは変わってくる。その時の勝利数であったり、順位などによって、目指すところが変わってくる。Bリーグは年々タフになっていくが、今シーズン、自分たちの調子が良ければチャンピオンシップを狙えるチームになるかもしれない。目標は、チームの成長度合いで、その都度、更新していけばいい」
「このチームは、残留プレーオフ回避以上のことが出来ると思っている。そこから先は自分たちのポテンシャルを信じるしかない。シーズンが開幕して、フタを開けてみて、何処まで行けるか。それは選手たち次第だ。このチームの成長を長い目で温かく見守って欲しい」
今季、ビーコルブースターに観て欲しいチームの姿
「選手たちが高い強度で、エナジーを出し、コートで全てを出し切る。選手たちがコートの上でがむしゃらに走り回る姿をぜひ観て欲しい。我々には素晴らしいブースターが揃っている。ブースターには本当に感謝している。彼らのために闘いたいと思ってくれる選手を集めたつもりだ。一致団結して、しっかりとしたパフォーマンスを出せるチームを作っていく」
自身2シーズン目のビーコル指揮への想いと覚悟
ウィスマンHCは、今季で2シーズン目の指揮となる。その想いと意気込みを聞くと、茶目っ気を出して「Better than last year(笑)昨シーズンよりは良くしたいね」とアメリカ人らしく肩をすくめて笑った。しかし、すぐに闘将の顔に戻ってこう語った。
「昨シーズンよりは良いチームにしたい。それは本当にある。そうしなければいけないという使命感が私自身の中である。このチームが上達するためには、一歩ずつ積み重ねていくしかない。その一歩が、どれぐらいの一歩なのかは、現時点では言えない。成長の過程の中で、どこまで良い一歩に出来るのかは今季ある楽しみのひとつだ。この一歩一歩を大事にしながら、このチームのために最善を尽くしていく」
そして、ビーコルブースターへ
最後にウィスマンHCは、シーズンをサポートするビーコルブースターへメッセージを送った。
「私がこのチームで関わってきた1年半で、横浜のブースターの皆さんから、素晴らしいものを感じ取りました。皆さんのサポートがなければ、私たちは試合をすることが出来ない。それを痛感しました。しかし、ブースターにばかり頼ってしまって、我々からは何も返すことが出来ていません。今シーズンのチームで、ビーコルブースターの皆さんが誇りに思ってもらえるようにしていきたい。このチームには大きなポテンシャルがあると信じています。応援して頂くブースターの皆さんが増えて欲しいと思うし、横浜が誇れるようなチームにしていきたいと思っています。今シーズンも応援をよろしくお願いします」
「BE COURAGEOUS」のスピリットで挑む今季、チームは“闘う”バスケットボールを念頭にアグレッシブで、強いハートを持ち、40分間を走れる、ディフェンスに長けた若き俊英たちを集めた。それを指揮するトーマス・ウィスマンは、この新チームのポテンシャルを最大限に引き出し、個ではないチーム力で勝ち星を増やしていくことに挑戦していく。
歴戦の闘将は「成長の過程は楽しみのひとつ」と言った。今季ビーコルがどこまで進化し、どれだけの競争力を得るのか。それは分からない。ただ、これだけは言える。ビーコルは変わるのだ。
苦杯をなめ続けた過去3シーズンで、バスケットボールを楽しむことを忘れていたのかもしれない。“Enjoy Basketball” もう一度、バスケットボールを楽しむことに立ち帰ろう。今はこのチームが持っているポテンシャルを信じ、その過程を楽しもう。トーマス・ウィスマンのビーコル2シーズン目は始まったばかりだ。
次回は、新たに就任したビーコルOB山田謙治チーム編成・強化担当兼アシスタントコーチに話を聞く。
【取材・記事・写真/おおかめともき/スローガン画像提供/©横浜ビー・コルセアーズ】
⬇これまでの『【連載】BE COURAGEOUSを掲げし横浜ビー・コルセアーズ』
第1回 河内敏光GMに聞く「編成」
http://b-cormagazine.com/interview/2019/07/31/kawachi