「僕も含めて、全員で闘った」海賊のキャプテンが語った苦しんだ今季への想い。
5月19日片柳アリーナでのB1残留プレーオフ2回戦で富山グラウジーズを破りB1残留を決めた横浜ビー・コルセアーズ。試合後に湊谷安玲久司朱キャプテンがB-COR MAGAZINEにその率先な想いを語ってくれた。
あの日、選手とビーコルブースターが歓喜を分かち合う中で、キャプテン湊谷安玲久司朱とエース川村卓也が抱き合う場面があった。湊谷はこの時のことをこう振り返っている。
「あの人とは、他の人とは違って、何か気持ちが通じるところがあるんです」
「勝ちたい気持ちと負けず嫌いなところが一緒で、何故か探して抱きしめたくなってしまうんです。あの人も来てくれるんで不思議と行ってしまうんですよね」
2年連続での残留プレーオフとなり、2回戦の相手は運命のいたずらなのか、同じ5月19日に、同じ相手富山グラウジーズと雌雄を決した。
「昨年も同じ富山さんとやっていますし、簡単に勝てる相手ではないということは分かっていました。最終的に絶対に競る展開になるだろうなと思っていたんですけど、最後はみんなが集中して、冷静になって闘うことが出来ました。僕らの気持ちが相手を上回れたこと。これが勝てた要因だと思っています」
湊谷に、残留を決めた時の率先な気持ちを聞くと、ため息混じりにこう答えた。
「長かった…」
「長かった。そう思ったし、去年も残留プレーオフだったので、本当に、申し訳ないとも思っていました。僕がプレーで引っ張って、みんなをチャンピオンシップに連れて行くのが僕の目標だったけど、それが出来なかった。これが一番悔しいです」
そして、湊谷が今季味わった、試合とは別に強いられた200日の長きに渡る苦しい闘いがあった。
「プレーしていると、あっと言う間に過ぎてしまうこともあるんですけど、今シーズンは怪我をして、毎日ずっとリハビリとの闘いだったので、余計に今シーズンは長く感じました」
湊谷は10月9日のアウェイ北海道戦の試合中に右足アキレス腱を断裂。以来、治療とリハビリをしながら選手兼アシスタントコーチを務めてきた。そして、怪我から数えて200日後の4月27日ホーム名古屋D戦、実に6ヶ月18日ぶりにコートに復帰。
普段は緊張しない湊谷が緊張したというこの復帰戦で、正確なパスから川村卓也の2Pと細谷将司の3Pをアシストして得点に繋げ、さらにはチームが流れを失いかけた場面では、レイアップ、2本を確実に決めたフリースロー、そしてここぞで3Pシュートを沈めた4連続得点で7点を挙げ、ホームのビーコルブースターの大歓声の中で、不死鳥の如く見事なカムバックを果たした。
以降、残留プレーオフも含めた5試合で選手としてベンチ入りしたが、出場は3試合に留まり、得点は5月2日アウェイ三遠戦での2Pシュートが今季最後の得点となった。
4月27日の復帰会見で、「残留プレーオフに向けて、100%に持っていければ」と意気込んでいた湊谷だったが、残留プレーオフで選手としてベンチ入りしたのは1回戦の西宮戦GAME1(プレータイムはなし)のみで、以降の試合では12人のベンチ入り選手枠から外れた。
「僕がベンチに入ると、誰かひとり抜けなくてはなりません。僕がコーチで入ると、選手全員がベンチ入り出来るんです」
特に決戦の2回戦で選手枠から外れたことは、キャプテンとして如何なる心境だったのだろう。
「足の状態が、試合で100%出来る状態でないということを前日にHCたちと話をして、僕が登録メンバーを外れることになったんです」
「でも、それに関しては怒りもありませんでした。何より、最後まで僕も含めて全員で闘ったと思っています。だから、何もかも本当に最高な気持ちで今季を終えることが出来ました」
こう語った時の湊谷の表情はとても清々しい表情をしていた。それは闘い終えた漢が見せる誇りに満ちた表情だった。怪我でのリハビリに大半を費やしてしまった2017-18シーズンだったが、海賊たちのキャプテンは間違いなくチームメイト、そしてビーコルブースターと共に闘い、あの歓喜の勝利を掴み取った。
キャプテン・アレクと皆から慕われる湊谷は、ビーコルブースターにこんなメッセージを送っている。
「まず、2年連続で残留プレーオフにしてしまって、本当に申し訳ない気持ちで一杯です。川村さんがコートのインタビューで言っていた『終わり良ければ全て良し』ではないですけど、また来季B1で挑戦出来る。B1で上に挑戦出来る権利を得ることが出来ました」
「来季のことはまだ分かりませんが、来季こそは勝ちたいと思っています。ビーコルブースターの皆さんひとりひとりに、本当に最後まで応援ありがとうございましたと伝えたいです」
湊谷安玲久司朱が、今季味わった悔しさ、キャプテンとして目標を果たせなかった無念さ、そしてこれまでに経験したことがなかった大好きなバスケが出来ない苦しさ。リハビリ中に何度も心が折れそうになったというその苦しい体験は、コートに復帰した湊谷にこれまでにない“冷静さ”という新たな力を与えた。
復帰会見で「やっぱ、バスケが好きなんだなぁて。楽しくてしょうがないんですよ」と言って笑っていた無垢で屈託のない笑顔が忘れられない。今季の悔しさ、無念さ、苦しさを経て、永遠のバスケ少年 湊谷安玲久司朱は、またひとつ強くなった。
【記事・インタビュー・写真/おおかめともき】