あの日、大逆転2Pを決めた川村卓也に聞く。


オレが留めを刺してやるぐらいの強い気持ちで、勝負を決める存在でいたい。エースが大逆転劇の中で感じた想いとは。

10月21日、横浜国際プールの今季開幕節だった対滋賀戦GAME2。横浜ビー・コルセアーズは、最大24点差あったビハインドを4Q最終盤に追いつくと、土壇場19秒にエース川村卓也が2Pシュートを入れて、今季の初連勝を劇的な逆転勝利で決めた。その試合直後におこなわれた共同会見で川村が現時点で感じている想いの数々を語った。

滋賀戦GAME2後に会見する横浜ビー・コルセアーズ#1川村卓也


開幕から5連敗中だったビーコルは、横浜国際プールの開幕戦となった前日のGAME1でようやく勝利し、苦しかったトンネルから脱出。その翌日におこなわれたGAME2では、4Q途中まで苦戦し、大量のビハインドを背負う逆境展開も、最後まで集中力と勝利への執念を途切らせることなく、最終盤の逆転劇に繋げた。チームとビーコルブースターをあの劇的な勝利のカタルシスに導いたのがエース川村卓也だった。川村はまずあの劇的な逆転勝利を振り返った。

「今シーズン初めて横浜国際プールで勝てた。試合前から2連勝したいというモチベーションがチーム内に溢れていました。前半に大きく離されていた中でも、常に声を掛けながら、個人的にも引っ張っていたつもりです。インテンシティ(集中力)が落ちることなく、徐々に相手に追いついていったことで、みんなの気持ちがさらに結束して、最後、この勝利に繋がったんだと思います」

「メンタル面で苦しかった5連敗から連勝出来たことは、今後のチームにとってはとても大きな出来事です。昨シーズンを振り返っても、国際プールで連勝出来なかったことを思うと、徐々にチームとしてはステップアップしている。2連勝出来て、改めてそう感じています」

あの試合の4Q、ビーコルは、ディフェンスをゲーム中にゾーンとマンツーマンを織り交ぜるチェンジングディフェンスに変更して滋賀の得点をひと桁7点に抑えることに成功。オフェンスでは果敢にインサイドにアタックしてレイクスを猛追した。

4Q中盤に、二ノ宮のファウアウトで得たフリースローを川村が2本とも確実に決めて差を10点に縮める。4分55秒、スリーポイントライン外に出来たスペースを田渡が逃さず川村にパス。受け取った川村はやわらかいタッチから3Pシュートを沈めてビハインドは遂にひと桁7点になった。川村は猛反撃の起点になっていた。

4Q 4分55秒、スリーポイントライン外に出来たスペースから3Pシュートを沈める#1川村卓也。これでビーコルは最大24点差あったビハインドをひと桁台にまで詰め、大逆転へのうねりが生まれた


2分17秒、川村がこのクォーター2本目となる3Pシュートをリングに突き刺す。差はわずか2点となった。川村は振り返る。

「あの時点では、まだ負けていたので、何も思いはなかった。ただ、あの直前に鹿野に(鹿野洵生)3Pシュートに対するファウルをしてしまいました。あれは完全に僕の距離感のミスです」

川村は、このシュートの前、田渡 凌が沈めた2Pシュートで3点差となった直後の2分31秒に痛恨のミスをしている。鹿野洵生が24秒ギリギリで打った3Pシュートを止めに行ってファウルを取られ、フリースロー3本を与えてしまった。この時、横浜国際プールのビーコルブースターから地鳴りのようなブースターディフェンスが巻き起こり、鹿野はフリースロー1本を外した。

「あのミスを取り返すためには、僕がシュートを決めることでした。ブースターディフェンスというのがこのアリーナにもありますが、ビーコルブースターの皆さんが1本目を外させてくれた。そして僕が3Pシュートを決めて、2点差にすることが出来たんです。今日、観に来てくれた人たちと一緒に闘えたと思うことが出来ました。ただ、あの場面でファウルすべきではない。それをどうしても取り返したいという気持ちであのシュートを打ちました」

4Q 2分17秒、#1川村卓也がこのクォーター2本目となる3Pシュートを沈めてチームは2点差に肉薄した。川村にとっては自身のミスを取り返すシュートでもあった


残り49秒、ジャボン・マックレアが、川村が外した3Pシュートを執念で押し込んで2Pシュートにすると遂に70-70の同点になった。そして、あのしびれる瞬間を迎える。

残り19秒、マックレアのスティールから田渡、モリス、田渡とボールが回り、コート中央の川村に届けられた。川村は一気にドライブしてペイントエリアにまで飛び込むと、渾身のフローターシュートを決めてビーコルが2点を勝ち越しした。川村は雄叫びを上げてガッツポーズ。コート上のチームメイト、ビーコルベンチ、ビーコルブースターも歓喜に沸き立ち、横浜国際プールは興奮の坩堝と化した。

4Q残り19秒、川村は土壇場で2点勝ち越しとなる2Pシュートを沈めた


「ああいうシュートを決めることが出来てこそ、チームを手助け出来るポジョンにいることが出来ると思う。入って良かったと思っています」

「ああいう時は自分が試合を決めてやるという思いで、そのワンプレーに取り組んでいます。それが自分がシュートを打つシチュエーションなのか、そこからパスを捌くシチュエーションなのかは、その時によって変わりますが、今日はディフェンスとの距離間があったので、オレがここで決めてやるという思いでした」

大逆転弾を沈めて川村は、雄叫びを上げた


あの神がかり的ともいえるしびれるシュートを決めた川村を観て2016-17シーズンの2月4日横浜国際プールでの千葉ジェッツ戦で川村がラスト1.7秒で決めた大逆転のブザービーターを思い出す人も多いのではないか。奇しくも、スコアは今回と同じ70-70から川村が2Pシュートを決めた72-70での大逆転勝利だった。川村も試合後にこの偶然を思い出したそうだ。

2016−17シーズン2月4日横浜国際プール千葉戦で川村は、奇しくも今回と同じスコア70−70からラスト1.7秒で2Pシュートを打ち、大逆転のブザービーターを決めている


「試合が終わってから振り返ると、過去にこのアリーナで千葉と闘った時に、同じようなシチュエーションがありました。あの時は1秒しかななくて、今回は十数秒でしたが、同じスコアだったんだなと改めて思いました」

「ああいう場面では、勝負を決める存在でいたいと常に思っています。悲観的な、入ったらいいなとか、弱気な気持ちは微塵もなくて、オレが留めを刺してやるっていうぐらいの気持ちで取り組んでいます。そういったオレの気持ちがボールに乗ってくれて、みんなの気持ちもあのボールに乗ってくれたからこそ、入ってくれたんだと思います」

今回の大逆転劇は、苦戦するチームの中で川村がキャプテンシーを遺憾なく発揮してチームを強く牽引したことが要因のひとつになった。川村はこの試合で両チーム最多の25得点を挙げているが、前半では滋賀の執拗なマークに苦しみ得点はわずか2点。チームもなかなかシュートが決まらず得点に苦しんだ。

「前半、なかなか思うようにボールを持たせてもらえなくて、相手は僕のところにボールを持たせないディフェンスをしてきました。相手のディフェンスも良かったですが、自分もそれに合わせてしまっていた」

「昨日のゲームもそうだったんですけど、昨日は、凌(田渡 凌)や将司(細谷将司)が非常に良くて、ゲームコントロールをしてくれていたので、僕がシュートを打たなくてもゲームが成立していたんですけど、今日はみんなシュートが入っていなかった。後半の出だしから、僕がテンポを上げて縦にバスケットをすることで、良いリズムが生まれると思い、多めにボールを要求するようにしました」

これが功を奏し、反転攻勢となった後半では、川村のピックアンドロールからチャンスが生まれていった。

「ゲームの中でアジャストが出来たのは、ひとつ良かった点です」

そして、最大24点差あった大差でもチームが集中力を途切らせずにチャレンジし続けたことも、この試合を逆転出来たもうひとつの要因だ。

「試合が止まるたびに選手を集めて言っていたので、みんな常にアグレッシブでいることが出来ました。ファウルが多くなっていても、3Pを決められながらも、気持ちを切らさずに、最後までプレーしていたことは、僕だけでなく、各選手が良い準備が出来ていたからだと思います」

川村は懸命にチームを引っ張り、チームメイトの気持ちを奮い立たせたが、川村にはチームを去っていったこれまでにビーコルを支えてきた先輩たちから引き継いだ教えと責任があると語る。

「ここまで、このチームは先に気持ちが切れることが多かった。若い選手が多いので、いま出ているメンバーの中で一番経験値が高いのは僕です」

「昨シーズン、ベンチからカバさん(蒲谷正之・現/信州ブレイブウォリアーズ)やケンジ(山田謙治・現/広島ドラゴンフライズ)が気持ちを切らすなと言い続けてくれていました。このことを、今シーズンは僕がやり遂げないといけない」

「このチームでプレーしたくても出来なかった選手はいるだろうし、いろんな先輩方に支えてもらいながら今までプレーして来ました。過去2年間は共に苦しい思いをして、bjリーグの時から長年このチームを支えてきたカバさんやケンジが、良い時も悪い時も、常に僕に声を掛けてくれていました」

「二人は精神的支柱でしたし、僕にとっても大きな存在でした。今度はそれを自分がやらないといけない。僕より年上の先輩、タケさん(竹田 謙)や高島選手(高島一貴)がいますけど、コートに立っている時間が長い僕がその役割を担わないといけない」

「年齢的にもそうですし、また今までとは違った自分を出していきたい。自分にとっては成長する機会だと思っています」

「いろんな選手が教えてくれたことを僕は継承しながら、このチームに落とし込んでいきたい。後に凌や将司がチームを引っ張っていけるような、大切な場面で声を出していけれるような選手になってくれたらいい。今はそう思って取り組んでいます」

「僕も成長段階ではあるだろうし、時には自分の感情に流されてしまいそうになりますけど、今日のゲームのように、自分が常に良いモチベーションでいることによって、チームが良い流れになると思っています。そういったところは、これからも継続しながら、自分のためだけではなくて、チームのことを第一に考えて、取り組んでいきたいと思っています」会見の最後、川村にここからの意気込みを聞いた。

「まだ借金生活なので、これを早くイーブンに戻したい。トムコーチ(トーマス・ウィスマンHC)が、やりたいバスケットというのを僕らがコートの上で表現すれば、良い結果に繋がると信じてやっていかないといけないと思っています。そこにイエスかノーかではなくて、コーチが言ったことは、全てイエスだと思っています。しっかりとした忠誠心を持ちながら、コートの上でパフォーマンスすれば、きっと勝てると信じてやっていきたい」

ウィスマンHCから指示を受ける川村卓也。栃木時代にウィスマンのもとで優勝した経験のある川村は、ウィスマンの考えをチームに落とし込む役割も担う


「週末におこなわれる2連戦でいえば、初日に勝たないと2連勝のチャンスはないので、まずは初日のゲームにしっかりとフォーカスして、勝つことを強く思いながらやっていく」

「あとは、アレク(湊谷安玲久司朱)がコートに立てないというシチュエーションを考えると、ベンチにいるメンバーもそうですけど、プレーしたくても出来ない選手の想いがあるので、ゲームに出ている限りは常に100%の状態で100%のパフォーマンスを出すことが出来るように、これからのゲームに取り組んでいきたいと思っています」

「シーズンは長いので、その中でステップアップしていくことを頭において、みんなでひとつになって闘っていくことが重要だと思っています」

かつて竹田 謙と共にウィスマンのもとで優勝を経験した川村には、ウィスマンの考えを、成長途上のチームに伝え、落とし込むもうひとつの重大な役割りがある。川村は、蒲谷正之や山田謙治の意志を引き継ぐエースの気概を持ってこれを遂行する覚悟だ。今回のこの逆転劇でチームが大きな自信を得たことは間違いない。ビーコルを去っていった偉大なレジェンドたちの教えと意志を継承し、川村卓也はこのチームで勝つために、強くするために、その身を捧げて死力を尽くす。

【写真・記事/おおかめともき】

川村卓也 Twitter
https://twitter.com/takuyakawamura1

川村卓也 インスタグラム
https://www.instagram.com/kwmrtky1/?hl=ja

 


Written by geki_ookame