規格外のビッグマンが、ビーコルに異次元の力を与える。
開幕戦の試合後に、期待のビッグマン#34ハシーム・サビート・マンカに話を聞いた。
カモシカのようにスラリと伸びた脚。221cmを誇るその身長はBリーグ最長だ。2Qで初めてコートに姿を表したとき、ブースターからは大きなどよめきが起こったが、実際に会った彼は、とてもジェントルマンで話好き。魅力ある低い声で、率直に語ってくれた。
日本で、そしてビーコルで初めてのプレーとなった開幕戦。ハシーム・サビートにとって、印象に残ったのはビーコルブースターだった。
「日本でプレーしたのは今日が初めての経験でしたけど、ビーコルブースターの皆さんが本当に熱狂的というのが凄い伝わって来ました」
しかし、ブースターも、ハシーム・サビートも期待が大きかったこの試合を落としてしまう。彼がいきなり味わった悔しさだが、次戦に向けてしっかりと切り替えていた。
「今日のゲームはもう終わった過去のこと。次の試合でどれだけ自分たちが強くなっていくかということが大事です。チームとしての課題が一杯残る試合でしたが、チームでもっとフィットしていくということ、徹底すべきところを徹底していくというのが、次の課題になってきます」敗因を彼は冷静に分析していた。
「やはり40分間をしっかりとプレーするということはこのチームの課題だと思います。最初の2つのクォーターは凄くいいエネルギーでリードでハーフタイムを迎えて、それで慢心してしまったのかもしれないですけど、後半エネルギーが落ちてしまって、向こうのエネルギーが僕たちを上回ることがありました。試合は40分間続くものなので、20分間プレー出来ていても、その後の20分間でひっくり返されるということがあるので、それはこれから気をつけていくことです」
9月16日に来日して以来、9月29日の開幕まで時間がなく、ほとんどぶっつけ本番だったといえる。
「難しい部分もありましたが、僕も何年もバスケットボール選手をやって来ています。自分もIQが高いですし、チームのみんなもIQが高いので、本当に頭のいいチームだと思っています。でも、その頭のいいチームでも、チームとしてのケミストリーがまだ足りないので、そこをどんどんやっていけば強いチームになってくると思います」タンザニア出身、2009年タンザニア初のNBA選手としてドラフト1巡目2位指名の逸材。コネチカット大学を出た秀才でもある。その人柄からチームに溶け込むのは時間が掛からなかったようだ。
「Oh, I Love it!チームメイトのことは本当に好きです。Ryo(#21田渡 凌)と何回かご飯に行きました。その時、彼が『どういう風にしたら、勝つ習慣がつくのか』と質問してきました。僕が負け越すことのない勝ってきたチームでプレーしてきたので、そういう質問したと思います。今日の試合では真逆のことをしてしまいましたが、リードがあったにもかかわらず、最終的に3Qでひっくり返されてしまったのは、それは本当に負け癖がついているチームという認識です。そこは僕とRyoだけではなくて、チームとして、みんなで直していきたいです」
2Q5分46秒、来日初得点を決めた直後、左手をみつめる場面があった。微笑みながら、ハシーム・サビートはこの時のことを振り返る。
「僕の利き手は右手なんですけど、あのフックシュートは左手で決めたんです。左手の練習もいつもしているんですけど、やっぱり右手よりは自信がないので、左手でシュートが入るとうれしいんです」
記念すべき来日初シュートは、利き手ではなく左手で決めたものだったのだ。その長身からのフックシュートは圧巻で、チームとブースターに大きな勇気を与え、大きな流れをもたらした。
「今日見せたシュートは、これからもどんどん見せていくことなので、期待して欲しいです」
実はハシーム・サビートには2年間のブランクがある。そのコンディションは、どうだったのだろう。
「バスケットボール選手として、コンディションを保つということは重要なことです。2年間のブランクといっても、アメリカでしっかりと自主練習を続けて来ましたし、チームに合流したときに、あいつは出来ない奴だ、コンディションもあがってないと、がっかりさせたくもないですし、やっぱり自分がプロフェッショナルとして、ちゃんとやって来ています」
確固たるプロ意識、ブランクに関しては心配無用なようだ。
「今日の試合でプレーして勝てなかったので、まだもっとやりたい!もっとやりたい!まだ闘いたい!という気持ちがあります。闘うという気持ちは、ずっと持っていないといけないものだと僕は思っています。それを皆さんにどんどん見せていきたいです」
燃えるような熱い情熱を持つ根っからのファイターだ。
初めての海外でプレーすることになったハシーム・サビートにとって横浜の街は、どう映ったのだろうか。そこには、彼特有の悩みが…。
「横浜はいい街で、気に入っているんですけど、自分が規格外のサイズなので(笑)自分が大きすぎて、入れないことがあったりして、日本がちょっと窮屈に感じることがありますね。でも、ここには仕事に来ているので、そういう環境でも慣れていかないといけないです。横浜という街は凄くいい街だと思っているので、これから少しずつ探索していきたいと思っています」
そして、ビーコルブースターへのメッセージ
「今のチームがどういう評判かというのは分かりませんが、僕がチームに加入したこともありますし、昨シーズンとは違うチームになるように変えていくつもりです。ビーコルをもっともっと、いろんな人を魅了するチームにしていきたいと思います。ゴービーコー!」
とてもやさしい口調で語られた言葉の数々には、彼のプロフェッショナルとしての自覚と確固たる自信を感じたハシーム・サビート。
チームに合流してから開幕を迎えるまで、チームで合わせたのは10回ほどだったという。それにもかかわらず開幕戦で、ジェイソン・ウォッシュバーンに次ぐチーム2位の11得点を挙げ、翌日の開幕2戦目では二桁得点こそならなかったが8得点を挙げ、長身を活かしたディフェンスでチームの圧勝に貢献した。
これから試合を重ねていくにつれて、チームにアジャストしてくれば、これまでのビーコルにはなかった大きな力をハシーム・サビートはもたらしてくれるだろう。次節レバンガ北海道戦での活躍が楽しみだ。
【写真・記事/おおかめともき】