連勝した西宮戦のヒーロー、Mr.ビーコルが語るチーム愛、そして想いとは。
平塚での西宮戦GAME2で今季5度目の連勝を挙げた試合後の会見場にこの日ヒーローとなった蒲谷正之の姿があった。プレータイムが少なくなった今季、与えられた時間の中でチームのために、ビーコルブースターのために死力を尽くすベテラン選手の想いが語られた。
B1残留に向けたサバイバルゲームが続くなかで、まず西宮ストークスから連勝したビーコルだったが、この第27節は、インフルエンザで欠場した細谷将司、田渡 凌、竹田 謙の3選手が不在で、チームは10人で闘うことを強いられた2試合だった。
加えて、B1に生き残るためには勝つしかない状況で、ポイントガードを二人も失うという危機に直面した。その窮地を山田謙治と共に救ったのが、チーム創設時からプレーするベテラン蒲谷正之だった。
前日GAME1の山田に続いて、GAME2ではビーコルが誇るベテランが試合後の会見席にヒーロー選手として座った。報道陣から「お久しぶり」と声を掛けられるとMr.ビーコルは「お久しぶりです!」と屈託のない笑顔をみせた。
「昨日からインフルエンザで主力の3人が試合に出れない中で、オレと謙治(山田謙治)も間違いなくプレータイムがあると思っていたので、準備はしっかりとやっていました」
「ただ、久しぶりの出場で(苦笑)、いかんせん昨日とか、2、3ヶ月ぶりにコートに立ったと思えるほどで、ゲーム勘がなかなか掴めずにいました」
2、3ヶ月ぶりは、流石に言い過ぎだが、西宮戦前は5試合出場がなく、その前のアウェイ名古屋D戦では7分40秒と8分16秒のプレータイム。それ以前は8試合に渡ってプレータイムがなかった。
今季の先発出場はわずかに3回。シーズン前半は、古田 悟前HCの方針でタイムシェアによる出場が多かったが、11月中旬以降は出場する機会がまちまちになり、プレータイムがない試合も多くなっていった。
川村卓也が胃腸炎で欠場した名古屋D戦GAME1では、8試合ぶりの出場だったが、ゲーム勘が戻らなかったのかショットに精彩を欠いてしまっていた。
しかし、B1残留という命題を背負ったこの西宮戦では先発こそなかったものの、GAME1で今季最長の20分19秒、GAME2で17分15秒プレーし、GAME2ではショットが冴えに冴えてシュート成功率100%。今季最多15得点を挙げ、見事なカムバックでチームの連勝に大きく貢献した。
「出だしで、今日は平気かなと自分では思っていました」
GAME1ではプレータイム20分19秒で7得点だったが、これでゲーム勘が戻ったのだろう。そして、蒲谷はベテランならではの洞察力で西宮のクセを見抜いていた。
「相手を見ていて、ピックアンドロールを使えば、点数を取れるんじゃないのかなと思っていたので、なるべくピックを多めに、シンプルなプレーを多めにしていたのが、良い結果に繋がったと思います」
「今日は、向こうも(前日に敗戦していることから)気合いを入れて来ると思っていたし、だいたい2ゲーム目が結構強くなったりするので、最初みんなで気を引き締めていこうと言いながらやっていたんですけど、やはり、最初はトントンなゲーム(一進一退の展開)になってしまいましたが、以降は点数を取るところはしっかりと取ることが出来ました」
チームは平塚決戦で連勝した一方で、ミスも多くなった。蒲谷はこれをこう振り返る。
「(ポイントガードである細谷と田渡の欠場で)普段ポイントガードをやっていない選手が、自分のポジションでないところを補ってやっていたんですから、ミスが目立ったのは仕方のないことです。その割には、みんなでしっかりと助け合いながら、出来たんじゃないのかなと思います」
一方で反省も忘れない。GAME2での勝利も、オフェンスリバウンドの部分では「18」と「9」で、大きく水をあけられてしまった。
「失点がちょっと目立ちましたね。ターンオーバーが多く出てしまったので仕方がないかな。あとは課題としていたリバウンドですね。オフェンスリバウンドの部分というのが非常に多くなってしまいました。西宮さんは、リーグでもオフェンスリバウンドが強い方なのですが、オフェンスリバウンドで負けたというのは、これからもっと上位のチームとやる時の課題になってきます」
蒲谷は本来シューティングガードだが、この西宮戦では慣れないポイントガードも務めた。このことを聞かれると蒲谷はこう言っておどけた。
「ポイントガードですよ!(笑)やれっていわれてやったんですもん(笑)ポイントガードはやっていましたから。自分なりのですけどね」
細谷と田渡の欠場でチームのポイントガードは山田謙治ひとりになったが、それを蒲谷正之と川村卓也がシェアしながら補った。
「1番を謙治ひとりでは、なかなか負担がかかりますし、タク(川村卓也)も、なるべくだったら(ポイントガードの仕事を)少なくしてあげたい。タクはフィニッシャーになってもらいたいんです。パスよりも、プレーメーカーよりも、フィニッシャーになってもらいたいので、少しだけポイントガードをやらせて、なるべく多めにピックを使って、さばくところは早めにしたりとか、そこは状況判断しながらプレー出来たかなと思います」
山田謙治と蒲谷正之はチーム創設時から共に闘う盟友だ。それだけに前日に今季初先発で活躍した山田の姿は、蒲谷の刺激になった。
「謙治にはお前しかポイントガードはいないんだぞって言っていました。謙治と僕が、なかなかプレータイムをもらえない中でしたが、謙治はずっと同じチームでやってきたポイントガードなので、やっぱり流石だなと思いました。昨日は、オレがあんまり良くなかったので、負けてらんねぇなと思いながら、出だしからしっかりと行こうと決めていました」
今季、蒲谷はコートに立つと本来のキャプテンシーを発揮してチームを引っ張っている。その姿はまさにMr.ビーコルだ。特にエース川村卓也には蒲谷とダブる部分も多く、自身の経験を伝えようとするシーンも多くみられるようになった。GAME2の勝利後に蒲谷は、文字通りMr.ビーコル賞に選ばれたが、受賞後にJA横浜賞を受賞した川村と話し込む場面があった。その内容を蒲谷は明かしてくれた。
「若手のポイントガードの時は、なるべくプッシュしろと。僕なんかは、それなりに歳なんで、プッシュというよりもペースを一番守って、ミスを少なくしないといけません。ボールをしっかりと持って、スペーシングをしっかり取ってから、ワンスクリーンをしっかりと使う。どれだけシンプルに出来るか。自分はそれで、bj時代からやってきました」
「落ち着いてピックを使って、スクリーンを使ってズレを作る。あとはそれにヘルプが来たらキックアウト。ただただシンプルなプレーを心掛けていただけなんです。いろいろなフォーメーションが沢山ありますが、本当にシンプルに。だから川村とは、今日はしっかりとスペーシングを取れて、やりやすかったなって話してたんです」
「若手にガーって付いていくのは大変なんです。ブワーッて走ったりしてね。でもそれが上手くいく時は、点数もガンッて上がりますから。タクとはそんな話でしたね」
2005年からプロとしてプレーする蒲谷の経験はチームにとっての財産だ。
前述した通り、今季の蒲谷はシーズン前半がタイムシェアでの出場。後半では出場機会がまちまちになり、プレータイムが減少しベンチからゲームを見つめる時間が長くなっていった。そんなMr.ビーコルの姿には多くのビーコルブースターがもどかしく感じただろう。このことを聞くと蒲谷は神妙な口調で語り始めた。そこにはMr.ビーコルの想いとチーム愛があった。
「横浜ビー・コルセアーズの初年度からやって、設立当初からプレーしていますけど、良い思いも、最高の思いもあったし、最低の思いもしています。その中で、本当にビーコルは、自分のチームというか、自分の家のようなチームなので、本当にチームが勝ってくれれば、僕は嬉しいです」
「今の采配も、若手の育成も、僕がチーム全体の目線から見てもそれは横浜ビー・コルセアーズが今後強くなっていく上で大事なことです。みんながステップアップしていく上で、役割があった時や、求められた時に、しっかりと自分の仕事がこなせられるようにする。それだけは出来るように準備して努力しています」
「チームが負けている状況は、凄く悲しいですし、そこに少しでも力を貸せれるんじゃないかと思った時はいっぱいありましたけど、勝てていないので、正直ウズウズしていましたね」
「今も正直言って、下の争いをしているので、本当に一戦一戦を大事に闘っていかなければいけないと思っています」
蒲谷は会見を終えて「お疲れ様でした!」と言って立ち上がると、会見室を出る時にこう笑顔で言った。
「久々に出たから疲れちゃった」
そこには、チームのために、ビーコルブースターのために死力を尽くし、闘い切ったベテランの姿があった。
連勝を挙げた西宮戦GAME2でのシュート成功率100%での15得点、4アシストで蒲谷正之がまだまだ健在なことは証明された。残り9試合、B1生き残りを掛けた闘いで蒲谷正之の力は必ず必要になる。
ビーコルが誇る35歳のベテラン海賊は、全身全霊を傾けて、今季終盤の闘いに身を投じる。
【写真・インタビュー・記事/おおかめともき】