「まとまりのあるチームだった」ヘッドコーチの方針を変えさせた2018年度チームの結束力とは。
3月、アリーナ立川立飛でおこなわれた「B.LEAGUE U15 CHALLENGE CUP 2019」栃木ブレックスU15と韓国チームのソウルSKナイツ戦で、2018年度の横浜ビー・コルセアーズU15チームが最後の試合を終えた。
チームはこの試合をもって解散し、選手たちはそれぞれが進む高校でのバスケ活動へと巣立っていった。最後の試合ということでセンチメンタルな感情があるかと思われたが、そこは現代っ子というべきか、意外にあっけらかんとしていた。しかし、チームはまとまっており、実に良いムードを醸し出していた。
2018年度の横浜ビー・コルセアーズU15チームはどんなチームだったのか。1年間チームを指導した白澤 卓ヘッドコーチ(以下HC)と、選手たちの証言からこのチームの姿を追う。
チームが出場した「B.LEAGUE U15 CHALLENGE CUP 2019」は、昨年8月におこなわれた「B.LEAGUE U15 CHAMPIONSHIP 2018 」のベスト4チームと、韓国ユースクラブの2018年度の優勝チーム「ソウルSKナイツ」、オーストラリアクラブの2018年度の優勝チーム「エルサム・ワイルドキャッツ」が総当たり戦で試合をおこなった大会だった。
ビーコルU15チームを指揮する白澤 卓HCは、この大会に出ることの意義をこのように話す。
「チャレンジカップは、その名の通り海外のチームと対戦する機会がある大会です。海外チームとの試合では、まず言葉が通じない上にプレースタイルも体格も違います。そういったチームにチャレンジする機会というのはそう多くはありません。海外チームとの対戦、またU15チャンピオンシップの上位チームとハイレベルな試合をすることは本当に貴重な経験になりますし、子供たちの成長にも繋がっていきます。こういった大会がもっと沢山あったらと感じています」
2018年度のビーコルU15チームは、昨年8月におこなわれた「B.LEAGUE U15 CHAMPIONSHIP 2018 」で準優勝に輝き、この「CHALLENGE CUP」出場への切符を手にしていたが、白澤HCはこんな裏話を教えてくれた。
「実は、チャンピオンシップの時には今回のチャレンジカップのことは、気負ってしまったらいけないと思って、選手たちには言ってなかったんです。僕のほうはベスト4に入った時点でガッツポーズだったんですけどね(笑)」
2017年度のビーコルU15チームは、田中 力を擁したメンバーでこの「CHALLENGE CUP」を優勝。5戦全勝して大会2連覇を成し遂げていたが、2018年度のチームは3勝2敗で惜しくも3連覇を逃し3位の成績だった。
今年優勝したのは5戦全勝したアースフレンズ東京Z U15だった。ビーコルU15は、昨年の「CHAMPIONSHIP」でこの東京Z U15と準決勝で対戦して勝利していたが、約7ヶ月後の再戦では62-90のスコアで敗れてしまっている。
「チャンピオンシップの時は、アースフレンズ東京Zさんに余裕を持ってやれていたんですが、今回は大差を付けられて負けてしまいました。中学生は成長が本当に早いんです。半年もあれば、サイズの大きい子たちはより巧くなるし、連携の精度も高くなります。その変化は、これだけ変わるのかと思うぐらいなんです。今回の3位という結果には決して満足していませんが、そういった成長の過程を見れるのもこの大会の意義のひとつといえます」
と話した白澤HC。今季のチームに関してはこのように話してくれた。
「ここ数年までのチームは、県選抜の選手や、県の上位チームにいる選手といったタレントが多く、彼らの成長をうしろからサポートするといったスタンスだったのですが、今年のチームはそういった選手がいなくて、県大会にも出ていない選手も多くいました。タレントと才能だけでいえば去年のチームよりは劣っていたんですが、ただ、そのぶんチームとしてのまとまりがありました。2018年度のチームが持つ特色“チーム力”を高めるということが今回のチームでのチャレンジになっていました」
「彼らの最後の大会を勝利で飾ることは出来ませんでしたが、これまでに指導してきたユースチームの中で一番、僕がやりたいバスケットボールに近いチームだったと思っています」
そのやりたいバスケットボールとはどういったものだろうか。白澤HCは続ける。
「例えば、一人が突破して相手に囲まれたとします。そこで次の人がどうにかするのではなくて、全員がひとつの目的に向かって役割を果たすんです。人もボールもちゃんと動くといったバスケットなんですけど、それをチームとして純粋に遂行出来るチームが僕の理想です」
「これまでのチームだったら、ボールをもらうと1対1になって、シュートを打ちたくなっていました。これに関してはシュートが上手くなるので、僕も止めていませんでした。でも、今年のチームにはボールをコントロールして、賢くやることを教えました。簡単にいえばチームプレーです」
栃木U15戦とソウルSKナイツ戦では、トップチームを彷彿とさせるような速いパス回しからのシュートが多く見られた。クラブ直系の下部チームということでトップチームの方針を意識したりすることはあるのだろうか。
「そうですね。意識はしています。僕も何度かトップチームの練習を見させてもらったのですが、その中には、いろんなヒントが沢山ありました。プレーのコンセプトやベーシックなチームオフェンスに関してはトップチームを観て学んだところもあります。その中から採用出来るところは採用して、中学生向けにアレンジした練習を提供しています。日本のトップチームでおこなわれているチームオフェンス、チームディフェンスはバスケットボールの基礎中の基礎なので、中学生の段階から知っておいて良いと思っています」
2018年度メンバー最後の試合は、韓国から招聘されたソウルSKナイツとの対戦だった。この試合でビーコルU15は106-41で圧勝。このメンバーで闘うラストゲームを有終の勝利で飾った。
ロッカールームのホワイトボードには『ラスト1ゲームを全力でプレーして楽しむ』と大きく書かれていた。これを書いたのは白澤HCだ。
「ロッカールームに書いたあの言葉が原点だと思うんです。あの最後の試合では結果的に100点ゲームになったんですけど、あの言葉を選手たちがそのままコートで表現してくれて、僕自身も楽しめたラストゲームになりました」
この大会でMIPを受賞した角田十希選手は、ソウルSKナイツ戦を終えて「サイズとパワーが足りないと思いました。高校に行ったらフィジカル面でも頑張っていきたいです」と話してくれた。海外チームとの対戦では驚きに加えて、得るものも大きかったようだ。
「日本のチームはセットオフェンスを綺麗に終わらせようとする傾向があると思うんですけど、海外の選手たちはアグレッシブにリバウンドを取ってきますし、ディフェンスやルーズボールでも積極的に飛び込んできました。ハッスルプレーが多かったことに差を感じました。見習おうと思います」
B-COR MAGAZINEでは、2018年度のチームを今回の試合も含めて、昨年のチャンピオンシップ、3月には練習風景も撮影と取材をさせてもらった。その度にこのチームが持つ結束力の高さを感じていたが、白澤HCは胸を張ってこういう。
「今年のチームは、決して能力とキャリアが突出していたわけではありませんでしたが、チームとしてプレーが出来るまとまりの素晴らしさや、バランス感覚の高さがありました。僕自身、今までは『“個”を伸ばすからこそチームがある』という概念をもっていました。でも、このチームに巡り会ったことで、その概念を逆にして集団を作っていくことにしたんです。そしたら“個”が伸びていったんです。逆転の発想だったんですけど、僕自身も今年のチームを1年間指導して、コーチとしてレベルアップさせてもらえたと思っています」
武藤拓郎キャプテンも「最初の頃と比べて、選手ひとりひとりが仲間のことを考えて、チームでプレーすることが出来るようになりました」と、このことを肯定する。
また角田選手は、「中学3年生のはじめ、このチームに入った最初のころから比べて、だいぶ成長出来たと思います。シュート率やディフェンスも良くなりました。自分自身、この1年間が一番伸びたと感じています」とビーコルU15での1年間を振り返っている。
大会を終えたロッカールームで白澤HCは、これで解散となるチームにこんな話をしていた。
「今年1年間、結果が出なくて苦しかったことも多かったと思うけど、それはそれ。常に結果が出ていることだけが一番良いわけではない。最後の最後に笑って、勝った人が一番良いんだ。今みんなはその過程にいる。そういったみんなに携わることが出来たこの1年間を本当に感謝しています。みんなのこれからの活躍が楽しみでなりません」
「これから高校でもっと苦しいことがあると思うし、これからチームメイトはライバルになるけど、ビーコルで仲間だったということは一生残ります。それを思い出しながら、良い選手と、良い人間に育って行ってください」
白澤HCのこの言葉を、選手たちは神妙な面持ちで聞き入っていた。この光景を側で見ていても、このチームがどれだけ素晴らしいチームだったかということが分かった。
選手たちが去り、ひとりになった白澤HCに1年間指導してきた教え子たちにメッセージはないか聞いてみた。
「僕についてきてくれた選手たちには感謝しかありません。彼らも本当に頑張ったし、苦しかったと思います。厳しいことも言いましたけど、これで高校にいって活躍してくれたら嬉しい。高校での活躍を心から期待していますし、将来、彼らがトップチームの選手になってくれたら『やったな』っていう喜び、達成感もあると思います」
そう話した白澤HCは晴れ晴れとした表情になっていた。2018年度のビーコルU15チームが持っていたまとまりの良さは、これまで“個”を重んじてきた白澤HCを“集団重視”に変えさせるほどに素晴らしいものだった。
選手たちはそれぞれの道へと巣立っていった。1年間にわたったビーコルU15の活動で選手たちは数々の貴重な経験を得た。それらは今後のバスケ人生で彼らを導く灯台の灯となっていくだろう。若き海賊たちのこれからの未来に大きく期待したい。
横浜ビー・コルセアーズユースチームのトライアウトは年に一度、毎年2月から3月の時期に開催されている。今年度の募集は既に終了しているが、今年度より新たに設けられたU18男子が現在募集中。このトライアウトが5月12日(日)におこなわれる(応募締め切りは5月11日(土)17:00まで)。高校1年から3年の男子選手はぜひ受けてみて欲しい。詳細は以下のリンクから見ることが出来る。
⬇横浜ビー・コルセアーズU15チャレンジカップPHOTOギャラリー
【記事・取材・写真/おおかめともき】
・B.LEAGUE U15 CHALLENGE CUP 2019
https://www.bleague.jp/u15-challengecup-2019/
・横浜ビー・コルセアーズ バスケットボールアカデミー
https://ybc-academy.com
・横浜ビー・コルセアーズ バスケットボールアカデミー Twitter
https://twitter.com/ybc_academy